DATE:2009/07/23 Guatemala - Flores -
王の景色。
地上60メートルから眺めるジャングルの森の姿は、
世界の全てを見渡しているような不思議な存在感を感じさせる。
僕はその眺めを「王の景色」と呼んだ。
果てさえも見えないその景色は1500年前は古代の王のみが眺められる特別な景色だった。
グアテマラの北、ペテン地方にあるティカル遺跡は、
紀元後500年前後に栄えたマヤ遺跡最大の規模を誇る遺跡である。
いくつもの神殿がジャングルの森の中に埋もれたようにそびえ立ち、
その遺跡に登って景色を眺めると森の中に突き出た遺跡がいかに大きいかがわかる。
ガイドブックによればマヤ文明と言ってもいくつもの種類があるらしく、
ここはティカルと呼ばれる文明が栄えた地域で文明それぞれに特徴があるようだ。
ティカル遺跡の特徴は現れた瞬間から圧倒されるその高さである。
最大の高さを誇る四号神殿が高さ70メートル。
それ以外の神殿も五号神殿が60メートル、三号神殿が55メートルと、
超大型のビルのような神殿がいくつも並んでいる。
それぞれは近接して立てられているものもあるが、
ジャングルの奥深く離れて立てられているものもあり、
その分、この遺跡の規模の大きさが際立って見える。
遺跡から次の遺跡を目指すためジャングルの中に作られた遊歩道を歩いていると、
なんだか探検をしに来たような気分にさせられる。
思い出したのはアンコールワットの遺跡で、
ここもまた木々の下に埋もれたままの遺跡が残り、
深く広く張り巡らされた太い根の中には抱かれるように苔生した石が眠る。
多くの神殿は頂上近くまで登ることができ、
その中で最も気に入ったのは五号神殿であった。
最も高い四号神殿には劣るがここもまた60メートルの高さを誇る。
そして何と言っても特徴的なのがそこを登る時の階段の急なことで、
角度45度以上はありそうな工事現場のような作りの木製の階段を、
一歩一歩上を見上げながら息を切らせて登っていく。
そこを登りきった景色はまさに「王の景色」
ここからは全ての遺跡が見渡すことができ、
西洋文化が入る前はアメリカ大陸で最も大きな建築物であった四号神殿も眺めることができる。
急勾配のせいか登ってくる観光客も少なく、
狭いテラス部分で眩暈がするような足元を見ながら景色をのんびり楽しむ。
1500年前にはこの地には文明があり、
いま座るこの神殿にもまた何かしらを祭る人々が訪れたのだ。
ただ変わらないのは目の前に広がるこの景色だ。
景色の中からただ人だけが去り、
遺跡だけが取り残されたように森の中に立ち尽くした。
そんなノスタルジーを思い起こさせるには、
どんな木々よりも高いこの神殿は効果的過ぎるほど効果的な舞台装置だった。
僕はその舞台の上、時折訪れる風と共に過去の記憶をさ迷った。
変わらない景色の中、ただ雲だけが流れていく。
それは良い映画を観ているような心地よい景色の流れだった。
閉館近くまで広い遺跡内を歩き回り心地よい疲れと共に遺跡を後にした。
夜になればきっと人気の無い遺跡の中は1500年前の静けさに戻るだろう。
町に戻ると湖に沈みきった太陽の紫の薄い光が雲間から漏れていた。
きっとこの景色はまだティカルの遺跡が作られる前からずっとここにあったのだと思った。
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