DATE:2009/06/15 Ecuador - Guayaquil -
「あぁ、やっぱりね」
そう思ったときには既にナイフを突きつけられていた。
何の変哲も無い住宅街。そのはずだった。
が、僕の直感はその場所が危険な場所だと言うことを告げていたし、
ついさっき道行く人にもそう言われたばかりだったのだ。
危険な場所だとわかり去り行く途中だった。
いや、最後の一枚と構えたカメラが命取りになった。
向かってくる強盗のナイフを見て僕はシュミレーション通りの行動を取った。
もしかして強盗に襲われたら。南米に来てそんな想像をしない方がおかしい。
何度も繰り返したシュミレーションの通り、
僕はカメラを外へと向かって投げ出した。
運が良ければ、と言うよりも予定ではカメラは道の先の階下へと落ちていく。はずだった。
そこが思ったよりも広い階段で、そこに落ちてしまった事は仕方が無いことだ。
鈍そうな体つきの太った強盗は少し僕の行動に戸惑った後、
そのカメラの方を追っていった。
僕がカメラを投げたのには2つ意味がある。
1つはもしかしたらカメラが彼の手の届かない所へ行くかもしれないという理由。
もう一つはカメラに注意を向いている間に逃げ出すことが出来ると言う理由。
僕は彼と距離を取り彼の様子をしばらく伺った。
銃であればもちろんさっさと逃げ出したが、
彼が持っていたのが錆びた鉈のようなものだったので、
もし襲ってきても逃げられると判断したのだ。
そんな間にも僕は被害を計算している。
カメラ。あれは保険が利くからまぁ良しとしよう。
今持っているもので奪われてはならないのはパスポートぐらいだ。
カメラの中には・・・たくさんの写真があった。
サンフランシスコ村での日々の半分。
そしてここに来るまでのいくつかの写真。
撮ったはずのいくつかの写真を思い出す。
あの子供たちの笑顔、たくさんの笑顔。
大切なものが奪われていく。
強盗はカメラを手にし、僕に背を向けていた。
おいおい。ふざけんじゃねーよ。
・・・返せ。
我ながら大馬鹿ヤロウなことにいつの間にか足は彼を追っていた。
あの写真を奪われるなんて。そう思うと自然と走っていたのだ。
「ポリシア!!!!!!!!!!!!」
そう叫びどうにか周りの注意をひきつける。
もしかしたら近くに本当に警察がいるかもしれないが、
それは単なる希望的観測でしかならない。
僕に出来るのは強盗の攻撃範囲に近づかないように追いかけるだけだ。
小高い丘の上に作られた住宅地。
階段ばかりのその道を全速力で追いかける。
クソ。靴が!
気づいたのは走り出した後だったが、
僕が履いていたのはクロックスでさすがに走るには適していない。
その靴を脱いでしまえば、その時はそこまで冷静な判断はできなかった。
それでも着かず離れずの追いかけっこぐらいはできる。
息を切らせながら登ったり下ったりの追いかけっこは続いている。
やばい。
彼は途中で振り返りナイフを振りかざして振り返った。
夢中で逃げる。距離はある追いつかれる事は無い。
それでも10メートルにも満たない距離でナイフに追いかけられるのは、
かなりの恐怖だ。必死に逃げる。
どうやら彼は攻撃するつもりはないらしく、
直ぐにまた逃走を始める。
あのナイフを見る限りきっと思いつきの犯行。
近くに仲間がいることを恐れていたが彼の逃げ方を見るとそれもなさそうだ。
カメラはくれてやる。せめてデータだけでも。そんな希望が少し沸く。
狭い路地を抜けて彼は立ち止まる。
「頼む!写真のメモリーだけでも返してくれ」
そんなスペイン語を身振り手振りで伝えるが彼にはわからない。
「頼む!頼む!頼む!」それだけを繰り返す。
ゆっくりと離れる彼、少しずつ近寄る僕。
彼の手に何かが握られているのを見た。
その手が動き何かが飛んできたのがわかる。
すんでの所でそれを避ける。石だった。
おぃおぃ。カンフー映画かよ。
そんな突っ込みが頭を過ぎる。
彼の追撃は止まらない石がまた飛んでくる。
が、、、遅い。
日本にいると当たり前の野球は世界では当たり前ではない。
この旅で何人もボールが投げられない男を見た。
そして彼もその一人だった。
日本人なめんな!
彼の投げた石をそのまま掴んだ。投げ返してやろうと思った。
もろく崩れてしまったその石だったが彼はそれに驚いたようだった。
石が飛んでくるのが止んだ。が次は意外なものが飛んできた。
机!!!
パワーに任せて投げられたそれをすんでの所で捕まえる。
が、やはり交わし切れず肩に机の脚が当たる。
やっぱしカンフー映画かよ。
ダメージはないが埒があかない。
もう一つ机が飛んでくる。これは後ろに下がって避けた。
いつの間にか彼の姿が見えなくなっている。
慌てて彼の姿を追う。いつの間にか階段をかなり駆け下りている。
やばい!見失う!
必死でそれを追いかける。
曲がり角で住民らしき人に逃げて言った方向を聞き追いかける。
既に姿は見失っていた。
くそ!
ぐねりと曲がる坂道を下りていく。彼の姿は見えない。
曲がりきった坂道を下りきった。
そこには買い物であふれる沢山の人がいた。
逃がした。
そう悟った。この中から彼を探す術はない。
沢山の思い出。
僕はそれを奪われてしまった。
なぜあの時、危険だとわかっていてもあそこに行ったのだ。
なぜデータのバックアップを取っていなかったのだ。
ハァハァと肩で息を吐きながら己の愚かさを呪った。
どうした?
そう近くにいた男が聞いた。
カメラを盗まれたんだ。そう言うと彼は黙って飲んでいたペットボトルの水を差し出した。
「飲めよ」そう言った彼の言葉がとてもうれしかった。
仕方なく警察に行き事情を説明し現場へと向かった。
事情を知っている住民たちが僕に変わり説明をしてくれる。
犯人は住民が知った顔らしく彼の名前も直ぐ割れた。
どうやらこの場所はやはり危険な場所らしく、
昼間とはいえ警察でさえもあまり近寄りたくない場所らしかった。
気づいてみるといつの間に付いたのだろうか、
顎や首にいくつかの擦り傷が付いていた。
戦いの途中で切れたのか気に入っていたネックレスも切れてなくなっていた。
そんな場所ならば探してもなくなっているだろう。
まぁ仕方ない。後は運に任せるか。
そう思い警察に全てを委ねることにした。
ひと騒動の後、落ち着いたのか一人はどこかへ電話をし、
一人は狭い派出所の中でサッカーを始めた。
・・・こりゃ、駄目だな。
期待は塵へと消えていった。
さぁてどうしたもんかねぇ。
意外なほどに落ち着いた気分でこれからの事を考えた。
奪われたのがカメラだったからだろうか、
それともそういう性分なのだろうか心はそんなに高ぶってはいなかった。
何せ過失はほとんど僕にあるのだ。
危険な場所に自ら踏み入れて何かを奪われたことに憤るほど
世界を知らないわけではなかったし、馬鹿ではなかった。
ミスはミスだ。それを悔やむ意味はない。
しっかし・・・この旅でカメラ6台お釈迦って何者よ俺。
バリ島で砂に落として壊したカメラ。
ベトナムまでの旅で自然に壊れたカメラ。
中国の上海でスラれたカメラ。
ブラジルまでの旅で自然に壊れたカメラ。
ペルーまでの旅で自然に壊れたカメラ。
そして今盗まれたカメラ。
正確には1台は壊れた後、直したカメラなので、
合計は5台だがそれでも1年半の旅にしては少々カメラ運が無い過ぎる。
まぁ、そんな泣き言を言っていても仕方ない。
運良く壊れたとは言え前のカメラはだましだまし使えないこともない。
だがせっかく新しいカメラを買う決断をしたのだ。
どうせならまた1台同じものを手に入れるほうが懸命だ。
なにせ、今あるカメラはいつ壊れるともわからない。
これからやることが決まった。まだ午後も早い。時間はある。
1つは代替のカメラを探すこと。
もう1つは5時になると言う警察の捜査を確認した後に保険用の報告書を手に入れること。
やることが決まれば話は早い。
新しいカメラを探すべく町の中心へと向かった。
が。。。
エクアドル、カメラ高すぎ!!!!
予想だにもしていなかったのだがこの国は電化製品が異常に高い。
ペルーで買った4万円のカメラ。日本で買えば3万円のカメラ。
なんと。。。
7万円也!
・・・いやぁ、一眼レフ買うし。それなら。
とエクアドルのカメラが異常に高いという難関が僕の前に立ちはだかったのであった。
んーめんどくさい。
カメラを盗まれたのはもうどうでもいいが、これはかなりめんどくさい。
考える。考える。どーにかしようと考える。
・・・ペルー帰るか。
もーーのすごく面倒なのだが、
これが一番安上がりで早いのだ。
なにせここからリマまで戻ったとしても往復で1万円もかからない。
日程的には3日ほどのロスだがそれで済むなら良いことかもしれない。
つまりは2万円で3日を買うかどうかの選択。
2万円あれば10日は暮らせるバックパッカーライフ。
時間はあるが金はない。というか価値観がずれている。
あぁ、しかし・・・めんどくせぇ。
今更ながらあの強盗への殺意が沸いてきたのであった。
5時になり宿で警察が来るのを待ったが一向に現れる気配がなかったので、
仕方なく自分の足で派出所へと向かった。
迎えに来ると言ったにも関わらず現れず、
派出所でガールフレンドに電話をしていた彼が期限悪そうに行った言葉が、
「カメラないよ」だけだったことは仕方ない。
世界の警察なんてこんなものだ。
しかし報告書が欲しいといった僕に
「それはここでは作れない。別の場所にある。5時で閉まるけど」
と言ったことは、さすがに馬鹿過ぎて呆れたのはしょうがない。
これで明日の朝、僕は警察に行かなくてはならなくなった。
本当ならばさっき警察を待っている間そこに行けたのに、だ。
犯罪が多い国は決まってポリスがどうしようもない。そう確信した。
書類を作ってもらえる警察署の場所を教えてもらい、
「バスはないのでタクシーで行け」と言われたが、
宿の人に聞けばやっぱりバスはあり、ともかく明日の早朝そこへ向かうことにした。
ともかくまぁ、これでやることも決まったし一件落着って事か。
無くなった物をはどうしようもないが、
せめて弔いでもと外へ出てビールを飲んだ。
ギターを持った酔っ払いにギターを借りて、
ビールを飲みながら久々にギターを弾いた。
何はともあれこの国の人たちは悪くはないな。
陽気に歌う酔っ払いたちを見ながらそう思った。
警察と強盗を除けばね。
なんて事をついでに思った。
てっちゃん
返信削除強盗と果敢に戦ったんだね。
日記、読んでて怖かったよ。
カメラ、たくさんの思い出の写真が詰まってたから
悔しかったよね。。。
でも写真よりやっぱり、てっちゃんの安否が最優先
だよ~。10月にかとえみの結婚式で会えるの楽しみ
にしているからね。身体を大切にするんだよ。
先日車上荒らしにあって、現場を見ただけでも凍り
ついたのに、犯人と鉢合わせになったらと思うと、
ぞっとする。
真理
>真理
返信削除ふぇぇ、車上荒らし。
日本もなかなかデンジャラスな世の中になってきたねぇ。
こっちはいろいろありますが無事生きてます。
ま、いろいろあった方が旅って感じでいいかもね、なんて
ネタ作りにせいを出す毎日。
先日はATMで・・・メキシコ編を乞うご期待w
気をつけてね。写真が大切で取られたくない気持ちは分かるけど。。
返信削除でも思い出いっぱいの写真を取られるのは悔しいね・・
それに当てにならない警察。イライラしちゃうね。