DATE:2009/03/24 Chile - Valparaiso -
バルパライソの町は曇り空に覆われていた。
あまり乗り気はしなかったが、
予定をこなそうとビーニャという隣町のビーチへと行ってみた。
曇り空のビーチ。
しかも肌寒ささえ感じる秋の始まり。
そんなものが面白いわけもなく、
ビーニャの町を2時間も歩いた頃にはやることもなくなり、
仕方なく寒空のビーチへと腰を下ろした。
やはり気分がまだ晴れない。
なぜ旅をしているのだろう。
なぜ旅を続けなくてはならないのだろう。
そんな事を考えた。
僕がこの旅で失った幾つものことを数えた。
28歳という時間。
何百万というお金。
一流会社の肩書き。
大好きだった女の子。
そんな事を考えると
取り返しのつかないことをしてしまったかのように思えた。
後悔などする気はないが、
それでもいま、この場所にいる理由が見つからなかった。
旅を終える。
それを真剣に考えた。
なんてことはない。チケットは手元にあるのだ。
全ての飛行機に乗れば日本に辿り着く。
ただ寂しいだけなのかもしれない。
そうも思った。
日本にいるときは自分にそんな感情があるなど思いもしなかったが、
どうやら人間としての機能はきちんと動作しているらしく、
旅に出てから時たま、寂しさという感情を覚えることがあった。
それは誰か好きな人がそばにいないから、というだけなのかも知れない。
今までそばにいてくれた誰かは、今ここにはいない。
誰かと話がしたかった。
くだらない話を延々と出来る誰かが欲しかった。
海岸を見るとなぜかハトがカモメと混じって、
何もなさそうな波打ち際にくちばしを忙しなく突き立てていた。
僕には見えない何かを必死についばんでいた。
そう言えば同じ事を昔、旅の初めにオーストラリアで思っていた。
僕が見えない何か。彼らには見える何か。
いつの間にか犬が来て、
しばらく僕のそばにいてまたどこかへ行ってしまった。
犬もまた別れを告げる。それがなんだか笑えてきた。
さて。旅を続けるか。
なぜかそういう気分になっていた。
そもそもウジウジ悩む事になんて慣れていないのだ。
それさえも2日も続ければ飽きてしまうということだろう。
自分のそのお気楽な性格を愛しむことにした。
立ち上がり砂を払うと、
雲間から光が差しているのが見えた。
その雲間はあっという間に広がって、
空に青い絵の具をぶちまけた。
僕はその青空の中を歩いた。
すっかり心は晴れていた。
きっと太陽のせいだ。そう思った。
僕の心はそんなに複雑にはできていない。
太陽仕掛けの狂ったハートはお日様と共に正常に動き出したのだった。
ビーニャから戻りバルパライソに着くと、
時間もあったのでまたもう一度、坂道を登ってみることにした。
なんだ綺麗な町じゃないか。
心からそう思った。
坂道を一つ登ればまた別の景色が広がっている。
くねくねと幾つもに分かれる坂道や階段。
それを一つ一つ選びながら進むのは冒険に近い。
進む度に新たな発見があり、
それが面白くて僕は目的もなく、
山の上を登ったり降りたりして楽しんだ。
昨日は気づかなかったこの町の楽しさが今日は良くわかる。
きちんと目を開いてなければ、
どんなところに行っても意味はないということか。
旅というのはそういうものなのだ。
旅人の数だけ別の思い出が作られる。
それが旅ってやつなのだ。
帰り道、市場に寄って沢山のハマグリを買った。
今日はこれで白ワイン蒸しを作ろう。
そうやって僕の心は旅の中に戻っていった。
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