DATE:2009/02/16 Brazil - Rio de Janeiro -
リオ・デ・ジャネイロ、19時30分。
到着した飛行機はゆっくりと停止し南米最初の地へと降り立った。
暑い!
最初の感想はまずそれで僕はダウンジャケットを脱ぎ捨てて、
久しぶりの夏の世界へと入っていった。
空港ではロナウジーニョの広告がWelcomeと言っている。
彼のユニークな顔を見てとうとうブラジルまでたどり着いた事を急に実感した。
ついに南米へ。
そう、ついに南米へたどり着いたのだ。
旅を始めたときには実感のなかった未知なる土地へついに僕は立っていた。
恐る恐るで空港を飛び出し、
バス会社のカウンターを見つけると市内へ向かうバスを待った。
1時間経ってもなかなか来ないバスに痺れを切らしかけた頃、
ようやく一台のバスがやってきて僕はそれに乗り込んだ。
これが僕のブラジルのイントロダクション。
緊張しながら乗り込んだバスは意外にも快適で、
思い描いていたアジア並みの設備とはかけ離れたもので、
意外にも意外にブラジルの都市が発展しているということに気づかされる。
しかし市内へと向かうバスの中から見る街並みはうわさ通りで、
明らかに危険な匂いがする道をいくつも通り過ぎていく。
確実にこの場所で下ろされば襲われる。
そう肌で感じるほどの薄暗い淀んだ路地が多い。
このまま車ごと襲われてもおかしくないほどの闇の色だ。
アジアやヨーロッパ、中東では感じることのなかった命の危険を肌で知った。
そんな緊張感を車外に感じながらもバスはぐんぐとスピードを上げて進んでいく。
まるで暴走でもしているかのようだが、
市民にはいつもの事のようで誰もそれに対して悲鳴の声を上げることはない。
ガクン!!!と車が急停止をしたのは、そんなことを考えていた真っ最中だった。
最初は信号に引っかかったのかと思ったが、車は青信号にも関わらず停止したままである。
客も最初は動揺することもなかったのだが、何かがおかしいということに気づき車内はざわざわとざわめき始める。
何かを叫んでいる人がいるがポルトガル語がわからないためまったく状況がつかめない。
外を見ても何か人が集まってきているのは見えるが、それが何なのかはまったく想像がつかなかった。
しばらくすると車を降りていく人が出始め、
仕舞いにはみな荷物を持って出て行ってしまったので僕もとりあえずそれにならって外へ出た。
人身事故だった。
車の下には血を流した女性がぐったりと倒れている。
死。それを思ったがどうやらまだ息はあるらしく、ゆっくりと体が動いている。
車の横では男性が涙を流し号泣している姿が見える。
彼の顔はただ悲しみしか写していなかった。失ったことが信じられない。
その突然の出来事に彼の心はまだ追いついておらず、ただ涙と声が流れ続けていた。
車の前にはひしゃげた自転車があった。
これで即死でないことが不思議なぐらいの。
しばらくして警察が来ると車の下の女性を助けもせず、事情聴取のようなものを始めた。
僕ら乗客はしばらく様子を伺っていたがどうしようもないと諦め、
それぞれに別の方法で各々の目的地へと向かっていった。
止まっていたのが運よくバスターミナルの近くで、
僕もその中から目的地へ行くものを見つけそれに乗って安宿町へと向かい、
ともかく1日目はと適当な宿を選び、そこに身を落ち着かせた。
人は死ぬんだ。と当たり前の事を思った。
そしてこの街の命の値段はとても安かった。
それがブラジル1日目。リオ・デ・ジャネイロの夜だった。
その衝撃的なイントロダクションが僕の南米初めての一日だった。
そんな夜から一夜明けて一日目。
狭い、虫の出る安宿を一歩外に出るとからりとした天気が広がっていた。
恐る恐る外を見回すもなんだか昼間の街はうって変わって平和そうだ。
とは言え南米初日何が起こるかわからない。
未知の土地に恐る恐る足を踏み入れた。
リオの町には路上生活者がいたるところに溢れている。
それがまた治安の悪化を招いているのだろうが、
ブラジル人にとってはそれもまた日常の風景らしく、
特に気にすることもなく道を歩いていく。
面白いのがその路上生活者がどこかから拾ってきたのだろう
いろいろなものを売っていて路上に広げていることだ。
人形や機械の部品、靴下やレコード盤にいたるまで取り留めのない品揃えが路上に花を咲かせている。
到底売れるとも思えないが、彼らがこうやって商売をしているということは
多少なりとも売り上げがあがっているという事だろう。
時たま電信部品専門の路上販売なんかもあったりして、見ていると面白い。
ヨーロッパからブラジルへ。
その変化はもちろん衣服にも現われる。
夏真っ盛りのブラジルではもちろん人々は薄着で、
そこはさすがブラジルといったところで女性はみなセクシーな衣装を着こなしている。
セクシーじゃなきゃ服じゃないわ、ブラジル人はみなそう思っているようで、
子供でさえも肩を露出した子供服を着ているほどだ。
タンクトップにショートパンツが最も定番のようで、
ムチムチとした体を惜しげもなく見せびらかしている。
と言ってもその体を維持できるのは若い頃だけのようで、
おばちゃんになれば欧米人同様にドンとした巨漢になり、
若い頃と同じ衣装のまま町を練り歩いていく。
体つきに関わらず露出度が多いのはさすがブラジルと言ったところだろうか。
それにしても。。至って平和な街である。
もちろん踏み入れてはならない雰囲気のある地域はあるが、
街の中心にいる限りはそれほどの治安の悪さは感じることはない。
路上生活者とは言え、ただそこで暮らしているだけということもあり、
別に何をするわけでもない。
日中はどうやらメインストリートを歩く限りは強盗などの心配はなさそうだ。
もちろんスリなどには気をつけなくてはならないが、
それはヨーロッパ含めどこへ行っても同じ事だ。
「南米」と聞いて構えていた心が少しずつ解けていくのがわかった。
リオの街にはパン屋が溢れている。
パステルと呼ばれるそのお店はいたるところにあり、
ブラジル人にとっての軽食屋のようなものだろうか、
朝食の時間やお昼時になると入れ替わり立ち代り人が訪れ1、2個のパンを食べていく。
パン屋の中にはカウンターもありそこで座って食べることもできる。
そして何より驚くのは・・・
「YAKISOBA」と書かれた看板。
そう、あのヤキソバが普通に売られているのだ。
多くはパン屋で売られていて牛肉や鶏肉などを選べ値段も安い。
久しぶりのヤキソバの文字に驚き僕もひとつ試してみる。
数分も経つと、あのジュウジュウという音と共にヤキソバが運ばれてきた。
見た目はすっかりヤキソバで香りからするとどうやら味付けは醤油ベースのようだ。
そのおいしそうな香りに期待が膨らみ箸を伸ばす。
うまっ!!
まさにヤキソバ。味こそしょうゆ味だが麺も含め間違いなくヤキソバなのだ。
なぜこんな地球の裏側でYAKISOBAと日本直輸入間違いなしの料理があるのだろう。
ブラジルには多くの日系人が移民してきたと言うが、
食文化にまで影響を与えるほどとは思いもしなかった。
遠い異国に根付いたMaid In JAPANに驚き舌鼓を打った。
まったくわからないポルトガル語でパン屋のおじさんと会話をし、
唯一知っているスペイン語「アシタマニアーナ(また明日!)」と言って店を出た。
そうそう南米では英語がまったく通じない。
そうは聞いていたがここまでとは。
挨拶はおろか数字さえも通じないのである。
その状況に中国を思い出した。
これは数字と挨拶の習得が緊急課題になりそうだ。
しかしなぜかブラジルというのは南米で唯一ポルトガル語圏なのである。
似てるとは言うがここでいくら言葉を覚えても次の国では使えない。
どこまで言葉を覚えるか。それは中々に難しい課題だった。
2時間も宿の近くをうろつくと街の雰囲気もつかめてきたので、
ぶらぶらと中心街を歩いてみることにした。
セントロと呼ばれる中心街にはたくさんの高層ビルが立ち並んでいる。
街並みはどちらかというとヨーロッパに近いもので、
石造りのヨーロッパ風の建築が立ち並ぶ。
この辺りはやはりもともとポルトガルが統治していた国として、
ヨーロッパの匂いが満ちている。
とは言ってもそこに暮らす人々の生活はヨーロッパとは似ても似つかぬもので、
南米に渡ってきた移民が何百年の歴史の中で独自の文化を築いていった事がわかる。
南米はアジアに近い文化レベルだと思い込んでいたのだが、
それはどうやらまったく違っていて東南アジア諸国よりは一歩進んだ近代化が進んでいる。
あえて言うならばマレーシアやタイのレベルと同等かそれ以上。
僕の抱いていた南米のイメージが一気に変わっていった。
それでもこの国の格差はものすごい。
高層ビルの下には路上生活者が溢れているし、
その彼らの横を颯爽と歩いていくビジネスマンの姿は同じ国に暮らす人々の姿とは思えない。
きっとこの格差が南米を犯罪大国へと導いているのだろう。
それ以外に手っ取り早く格差を生める方法はないのだから。
僕はここに近い街を知っていた。
インドネシアのジャカルタだ。
近代化された中心街のすぐそばに広がるスラムのような町並み。溢れる路上生活者。
それでもジャカルタではそれほど殺人や強盗など重犯罪は多くはない。
もちろん起きているのは起きているのだろうが南米程の危機は感じない。
それはイスラム教とキリスト教の違いなのか、
それともアジア人とラテンの血の気質の違いなのか、面白い差だと思った。
セントロには大きなピラミッドのような円錐上の建築物があり、
それがブラジル式の教会、カテドラルだった。
南米の国はおおよそクリスチャンでさすがヨーロッパの作った国々と言ったところだ。
ヨーロッパの歴史的な建築物を見慣れた後とあって、
その現代建築バリバリの教会の姿は面白い。
コンクリートで幾何学的に設計された教会内には、
天井から床まで何十メートルにも渡ってステンドグラスで覆われており、
神々しさというよりはアートを見ているような気分にもなる。
しっかしこの派手な教会はさすが南米と言うべきか。
何せキリスト云々よりも建物の凄さを見せ付けるために作られたような印象も受けるのだから。
教会を後にし、まだ夕暮れ前だったが念のために宿へと帰ることにした。
まだ僕はこの街の夜の姿を知らない。
昨日の夜、バスから見たその姿は危険に満ちていた。
数日後に行われるリオのカーニバル。
それはもちろん夜中に開催される。
少し不安でもあるが、夜が祭りで染まる姿が無性に楽しみでもあった。
宿に戻り近くの定食やブラジル式の夕食を食べる。
まったくわからないメニュー表から1つを指差し、
まったくわからない店員の確認に「シィ(Yes)」と答える。
ついでにビールを注文すると、
ギンギンに冷えたビールがさらにプラスチックでできた保温ビンに入れられて出てきた。
やるじゃねーか、ブラジル。
ビールがうまい国に悪い国はない(と思う)
そのもてなしにすっかり満足し冷たいビールを飲んでいると、
注文した料理がカウンター椅子の前に運ばれてきた。
見たところカレー味の肉とじゃがいもの煮込みのようなもののようだ。
そして・・・うまい!!
どうやらブラジル料理は悪くないようだ。ビールに合うその料理にすっかり満足。
が、ひとつ大きな、とても大きな問題が目の前にあった。
多すぎだろ!
こんもりと盛られた肉の皿とは別に3合はあろうかというライスが横に並び、
さらには山盛りのサラダ、ついでに豆のスープのようなものがずらりと置かれている。
日本で言えば2人前は軽く超える量があるのだ。
これがブラジルって奴か。
僕は目の前に並べられたブラジルからの挑戦状にフォークを突き刺した。
ブラジル1日目。この国は悪くない。
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