DATE:2009/02/07 Italy - Venezia -
本日ハ快晴ナリ。
嬉しいことにヴェネチア最終日の朝、荷物をまとめ外に出ると空は青く晴れ渡っていた。
飛行機の時間までは3時間ほどしかなかったが、
それでも晴れの日のヴェネチアが見てみたく急いで対岸へと渡るバポレットへと乗り込んだ。
晴れの日の街は曇り空の昨日とはまったく違って見える。
光を反射しきらめく運河は本当のヴェネチアの美しさを映し出していた。
土曜日ということもあってか昨日よりも観光客が多いように感じる。
その中には日本人の姿もちらほら見える。
年齢と時期から見て卒業旅行の大学生なのだと思う。
そう言えばイタリアへ来てから急に日本人の姿が増えたように思える。
さすが日本人に人気が高い国である。
サン・マルコ広場へ立つと思いがけず昨日の水がまだ引いておらず、またもや渡り廊下の上を歩くとになった。
道を歩く何人かはカラフルなビニールでできた長靴のようなものを履いていてそのまま水溜りの中を歩いている。
ヨチヨチと水の中を歩く姿が少し楽しそうでなんだか少しうらやましくなった。
どうやら冠水は結構なものらしく昨日の夜同様に全ての道を歩けるわけではないらしい。
本当は歩いて奥のほうまで行ってみるつもりだったが、
あっちこっちで行き止まりに遭遇した挙句、諦めてボートで遠くまで行ってみる事にした。
ヴェネチアの中央を通る大運河をボートは進んでいく。
昨日通った運河のはずなのに今日の景色がまったく違って見えるのが不思議だった。
運河には昨日はほとんど見ることのなかったゴンドラがいくつも浮かんでいる。
カップルや家族連れ、楽しそうにゴンドラの上で優雅な時を過ごしている。
水上ボートから降り橋の上からその優雅な景色をゆっくりと眺めた。
商売は大繁盛のようでゴンドラ乗り場からはひっきりなしにいくつものゴンドラが出発していく。
ゴンドラは最初ゆっくりと運河を回った後、細い運河の角を曲がり姿を消した。
彼らの姿を追って僕も細い路地を曲がり運河の奥へと向かう。
ちょうど向こうからゴンドラがやってきて狭い橋の下を身をかがめながらゆっくりと通過していった。
あっという間のタイムリミット。
まだまだ名残惜しかったが飛行機の時間が迫っていたためもう一度運河を引き返して宿へと戻った。
帰り道にピザ屋があったので昼食代わりに1枚の焼きたてピザをオーダーして宿に持ち帰る。
4種のチーズのピザ。モッツァレラやゴルゴンゾーラ、そしてパルメザンなんかを乗せただけのシンプルなピザは
驚くほどおいしく、イタリア最後にして最高のご馳走になった。
今度は重い荷物を担いでバポレットへと乗り込み、
いつもとは違うサン・マルコ広場とは逆方向へと向かった。
最後のボート。ヴェネチアとの別れ。そしてイタリアとの別れ。
少し寂しくはある。だが気持ちは既に次の国へと向かっていた。
情熱の国スペイン。そしてヨーロッパ最後の国でもあった。
バポレットを降りヴェネチアの市内から少し離れた空港へバスへと向かう。
飛行機に乗り込み2時間もすればもうバルセロナだった。
正確に言えばさすが100ドル未満の安チケットらしく、
到着したのはバルセロナ近郊の1時間も離れた町でさらにバスに乗り込み僕のスペインの旅は始まった。
さぁ、ここはスペインのバルセロナ。
イタリアもそうであったがこの町はヨーロッパで最大限に注意しなくてはならない町だ。
なにせここへ来てスリや置き引きなどの被害を聞かない日はないという。
首絞め強盗などの強引な手口の犯罪も少なからず起きていると聞く。
実は中東を一緒に旅していたマサミも既にスリの被害にあってしまったそうだ。
そんなわけで、今までにないほどの厳戒態勢でこの町には臨まなくてはならなかった。
ところがそのバルセロナ。
バスから見た感じだと思ったよりも犯罪が多そうな町には見えない。
危険な町にはスラム街や浮浪者の姿がつきものだったが、
見回した限りでは街頭も多くそれほど危険な匂いはしてこない。
ともかく宿に行かなくては。
たどり着いたのは夜中の8時を回った辺りでさすがに警戒を緩めるわけにはいかない。
タクシーというのが正しい手段だったが、ヨーロッパでそれをするだけの余裕はない。
バスターミナルを抜け出して夜中の道をゴルゴ13ばりに警戒しながら地下鉄を探す。
すぐに地下鉄の入り口は見つかりひと安心。
チケットを買おうと自動販売機にお金を入れていたその時であった。
「ぶしゅりっ」
と、何かの音がしたのはわかった。
だがその時は我がこととも思わずにそのまま自動販売機のほうを向きチケットを買っていた。
さて地下鉄に乗ろうか。そう思い振り返ると、何かひやりとする。
何だ?そう思いそこを手で触る。
・・・なんか変なのがズボンに付いてる。
最初はわけもわからず、仕方なしにズボンを拭こうとしたが、
どうやらそれが付いている範囲が思ったより広いようでリュックを降ろして本格的に確認してみると。
なんじゃこりゃーーーー!!!!
背中に背負ったリュックにも何か白い吐しゃ物のようなものが付いている。
確認するとリュックからズボンにかけて、びしゃりと何かが付けられていた。
なんやねん、これ!と思うも、仕方なくティッシュでひとりそれを拭くしかない。
付いていた白いものはクッキーを水に溶かしたようなもので、別に害はなさそうだが見た目に気持ち悪い。
腑に落ちない出来事に憤りながらそれを拭いていると、ふとしたことを思い出した。
ケチャップ強盗。
あれ、これケチャップ強盗の手口じゃね?
ケチャップ強盗とはその名の通りケチャップを相手にかけて、
それを拭いてあげるふりをして財布や貴重品を抜き去っていくスリの手口である。
そのケチャップ強盗も最近はケチャップではない別のものが使われるようになったと聞いたことがある。
これ、そうじゃん。ケチャップ強盗じゃん。
しかし!
辺りには誰もおらず、さっきから一人で悲しげにそれを拭っている時も誰も助けには現れていない。
よく思い出してみると先程チケットを買っているときに聞いた音はそれをかけられた音だったが、
それ以外に特になんの音沙汰もないのだ。
なんじゃ、この放置プレイ。。。。
状況からしてみるとケチャップ強盗の手口なのだが、
僕は単にそのケチャップをかけられただけで終わっており肝心の強盗部分がなくなっている。
つーかなに?かけられ損?ケチャップ余った?
なんか気づいてみるとそれはそれでムカつくことではあるが、
逆になんだかおいしい気がしてもくる。
「バルセロナでケチャップ強盗にケチャップだけかけられました。」
なんだか良くわからないがやるじゃねーかバルセロナ。
僕はその宣戦布告をありがたく受け取ることにした。
最初の印象など信じるなということだ。
脳ある鷹は爪を隠す。やはりバルセロナはバルセロナだ、という事だった。
一気に気合が入り地下鉄に乗り込む際も常に背中は壁に向ける。握手は左手で、だ。
地下鉄で変な笑い上戸のおばちゃんに会ったがそれ以外は特に音沙汰もなく、
無事に宿へとたどり着くことができた。
とりあえずはこれでひと安心。と、スペインに来たからにはとバルへと出かけることにした。
その油断が命取り。バルセロナの夜はそんなに甘くはないのであった。
ふらふらと町を歩き適当に手ごろなバルを探す。
観光客向けのも良いができれば地元民が利用するような庶民的なバルに入りたかった。
道を一本入ったところにいい感じで賑わうバルがあったのでそこに入ってみることにする。
おなかも減っていたので早速タパスとビールを注文した。
店内にはさすがスペインらしくサッカーの中継が流れ、
客はそれぞれに仲間とわいわいやっている。
その雰囲気が楽しくてスペインという国が面白くなってきた。
隣の席に座っていたのはモロッコ人で彼とはすぐに仲良くなった。
スペイン語で乾杯はなんて言うの?そう聞き二人で「サルー」と乾杯した。
その後も彼のスペイン語講座は続き挨拶やありがとうと、幾つかの単語を覚える。
聞いてみるとどうやら彼は仕事できているらしく、
何の仕事かは知らないがさすが海を越えればすぐにたどり着く国だと思った。
注文したタパスもおいしくビールを数本空けると気分も良くなり、
スペイン最初の夜としては上々だと思った。
夜も遅くなったので彼に帰ると告げて会計を済ませる。
そして僕が財布を開けたその時だ。
にゅいっと彼の手が伸び、、、なんと僕の財布の中に手を入れたのだ。
最初は何かの冗談かと思ったが彼の手にはコインが握られている。
状況は良くわからなかったがともかく彼に返してと言う。
が、彼はそれをそのまま自分のポケットに入れたのであった。
何の冗談かは知らないが、それはつまらな過ぎる。
ともかく「返せ」ともう一度言い、彼の手からコインを奪い取った。
なんだこいつ?
そう思うも、一度は酒を酌み交わした仲だ。
もう一度さよならと言うと、彼は笑顔で僕にハグをした。
そして彼の手は僕のポケットへと入っていった。
・・・キレた。
彼の手首を思い切りひねり上げテーブルへと押し付けた。
「ポリシア!」そう言って店員に電話をかけさせる。
確認したところ幸い取られたものはないようだった。
隣で酒を飲んでいたモロッコ人。
こいつは実はスリだったのだ。
仕事というのもきっとスリの事だろう。
スペインへはきっと不法滞在をしているようであった。
どうしたどうした、と周りがざわつき始め何人かが僕を取り巻き状況の説明を求めた。
「こいつが僕のものをすろうとした」と言うと、一人が確認させろと財布を出せといった。
直感する。
こいつもスリだ。
どうやら地元の人で賑わう、と勘違いしたこのバルはスリの巣窟で、
国籍もスペインとは違うモロッコやエジプト人ばかりだった。
もちろん一般の人も混じってはいるだろうが、この店がそういう店であることは間違いなかった。
「俺はまだ何も取ってないじゃないか」そう言ってモロッコ人の彼は警察を呼んだことを非難する。
スリの現行犯で捕まっていることを理解していないらしい。
お前のカメラはそこにあるじゃないか、としきりに繰り返している。
何はともかく警察にこいつを引き渡せばこれで終わりだ。
僕が取られたものは特にない。これでバルセロナの夜は終わるはず。だった。
10分もすると警察がやってきて状況を説明しろと言う。
英語ができる警官だったので彼が僕のものを取ろうとしたと説明すると、
今度は彼の方へいって、彼の言い分を聞いた。
「で、結局何を取られたんだ?」警官はめんどくさそうに僕に尋ねる。
「お金は取られたけど、取り返した。彼は僕のポケットに手を入れてスリをしようとしたんだ」そう答える。
「で、何を取られた?」
?意味がわからなかった。僕は別に何も取られていない。
だけど彼はスリだ。それを捕まえろと言っているのだ。そう繰り返した。
「で、何を取られた?取られてないのか?」
警官の答えはそれだった。
「取られてない。」
その答えを聞くと、「取られてない。ならば問題ない」そう言ってめんどくさそうにその場を去っていってしまった。
ナンデ?
なんだか状況的に僕が悪いようになっている。
「取られてないなら問題ない」なんなんだそのルールは。
そりゃバルセロナ犯罪が減るわけがない。なるべくして犯罪都市になっているのだこの町は。
スリを一人捕まえて完全勝利のはずのバルセロナ最初の夜は、
警察のありえない対応によって、まさにスペインを体験する一夜となった。
まぁいっか、これがスペインって奴だ。
それがわかっただけでも今日は良しとしよう。そう思うことにした。
別に何かを取られたわけでもない。
ケチャップ強盗未満に、スリに警察。一日でスペインにどっぷりつかった。
それになぜかこの国に対してわくわくしてしまっている自分がいる。
今日みたいなことは危ないのでもう辞めることにして、この国はけっこう面白いらしい。
明日からのスペインの旅が楽しみになっていた。
へっへっへ。スペイン。負けないかんね!
それがスペイン最初の夜の出来事だった。
ヨーロッパ最後の国、スペイン編始まります!!!
さて、次の朝の出来事だ。
今日の宿代を払おうと財布を確認していると・・・あれ、20ユーロ足りない。
あ。。。くそ!あいつ!!!!!!!小銭はフェイクだったのか!!!!!
バルセロナの夜。完全勝利ならず。
さすがにプロはプロだということらしかった。
しかも確認のため彼のポケットに手を突っ込んだときに20ユーロが入っていたのはわかっていたのだ。
「これは俺のだ」と言った彼の言葉を素直に信じた己の愚かさを呪った。
やっぱりプロには勝てないもんだね。そう思ったある日の一日。
くそっ!!!
↑犯人はこいつだ!・・・写真まで取ってる俺っていったい。
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