DATE:2009/02/05 Italy - Milan -
ダビンチ科学技術博物館は
レオナルド・ダ・ヴィンチの残したメモを元に復元した数々の実験模型を展示している。
全体的に見るとその他の科学技術全般に関する展示が多く、
小学生などの見学も多いようで僕が訪れたそのときも沢山の子供たちが見学に来ていた。
その彼らの為なのかラボと呼ばれる実験室が多くあり、時折その中から子供たちの歓声が聞こえてきた。
中世の天才が考えた過去の遺物。
人が空を飛ぶための装置、砲弾を遠くへ飛ばすためのカタパルト。
いくつもの模型が一直線に続く廊下にずらりと展示されている。
レオナルド・ダ・ヴィンチ。
かのモナリザを描き最後の晩餐を描いた人。
その一方でこのような科学技術に対してもまた天才の力を如何なく発揮した人物。
この天才が成し遂げたことは素晴らしい。
しかし今僕らはこの天才が思いもよらなかった発展をしている。
飛行機で空を飛び、携帯電話やインターネットで世界とつながる。
こう考えてみると凡人の努力こそ素晴らしいものはないと思えてくる。
そりゃもちろん、そういった技術の開発にはいくばくかの秀才が必要なのだろうが、
それでもレオナルド・ダ・ヴィンチのような芸術にも科学にも長けた天才はそういないだろう。
天才ではない何者かが作り上げた世界。
僕ら凡人だって世界を潤すには十分な逸材なのだ。
天才の成し遂げた数々の遺功をを見ながら、不届きにもそんなことを思った。
それでもまぁ、この天才が今の時代に生まれていたなら。と思うと興味はある。
どんな発明をしたのだろう。どんな感動を生み出したのだろう。
もしかしたら現代教育に押しつぶされて単なる凡人か変人になっていただけかもしれないが。
どんな世の中も天才という素材を料理する環境があってこそ意味がある。
さて、今日のメインイベントは・・・「オペラ」
そう、オペラだ!
ミラノに来て、スカラ座のあるミラノに来てオペラを見ないわけはない。
あのブルジョアジーな世界に、ドレスコード満載な世界に、
つーか日本にいても行ったことも興味もないオペラの世界にいざ飛び込もうという訳だ。
上流階級への道をいざ歩まん!
果敢にも挑戦した先代オペラーの話によると、
どうやら学生や庶民が観覧する席が劇場には用意されていて、
そこならばドレスコードもゆるく、また料金もそう高くはないとの事だった。
実は昨日、オペラのチケットオフィスへと訪れていた。
そこでチケットの情報を聞いていたときのことだ。
「オペラのチケットはここで帰るの?」と聞いた僕に、
「はい。でもここでは高いチケットしか買えませんよ。」
とおしゃれなスーツに身を包んだ受付の男性は即答してきたのだった。
おい、即答かよ。と思いながらも、見た目がその通りなので仕方ない。
とは言えここは一矢報えるかどうかぐらいは確かめて見なくてはならない。
「チケット代はいくらなの?」と聞いてみた。
「300ユーロから500ユーロとなります」
おぃ。その程度の価格。この俺様に買えないと思っていたのか。。
と、調子に乗ってカードで買ってしまおうとするも、
こういうところでそういう小さいことをしても逆に笑われるだけなので素直に「安いのはいくら?」と聞いた。
「安いチケットは、12ユーロからで当日スカラ座の横のチケットカウンターで販売しています」との事だった。
てな訳で今は、その場所。スカラ座横のチケットカウンターの前にいた。
少し緊張した面持ちでチケットカウンターに並ぶ。
なにせ東京にいた時だってオペラのチケットなんて買ったことがないのだ。
僕の番が来てチケットカウンターの前に立つ。そして「チケット一枚ください」と告げる。
カウンターのスーツ姿の男性はちらりと僕を一瞥し迷うことなく
「12ユーロです」と言った。
おぃ。選択肢すら言わんのかい。
聞いていた話だと安いチケットにもランクがあるはずだった。
そして12ユーロのチケットはその中でも最も安いチケットだった。
ヨーロッパの人間は身だしなみで人を判断する。
それをこの旅で最も実感した瞬間であった。
とは言え12ユーロのチケットに文句はないのできっちりと12ユーロを手渡し、
僕は会場までの時間を近くのマクドナルドでつぶすことにした。
目の前をプラダ。その横をルイ・ヴィトン。
そんな立地の中に立つマクドナルド。
その世界一ラグジュアリーなマックは内装も黒をベースにしたなんだかシックな装いだ。
とは言え置いてあるメニューはマクドナルドそのもので、
なんだか逆にその無駄な抵抗が逆に世の無常さを感じさせる所でもある。
マクドナルドの前の広場では学生の団体がコンテンポラリーダンスを披露している。
20人ほどの人間が追いかけっこをするようなそのダンスは、
どこか水の流れのようでもあり人の流れのようでもありミラノらしい光景でもあった。
そんなマクドナルドの中で、いんちきラグジュアリー体験をしているとあっと言う間に開演の時間となった。
スカラ座の階段を上っていく。
吊るされたシャンデリア。それだけで上流階級の匂いがする。
因みに安チケットの観客と良い席の観客とでは入り口さえも違い、
それだけで格差の匂いもする。
ま、そんなことは関係ない。
スカラ座でオペラ。そのネタだけを達成すれば良いのだ。
そして世界で最も美しいオペラシアターの中に12ユーロで入れるのだから入場料としても文句はない。
何段も階段を上ってようやく舞台が見渡せる場所へとたどり着く。
一目見ればここが世界で最も美しいオペラシアターであると納得する。
赤と金、そして象げ色で彩られた館内はまさに上流階級の美しさ。
その糸目をつけない美しさの中央には煌く巨大なシャンデリアが瞬いている。
舞台を中心に野球場のスタンドのようにぐるりと囲まれた観客席は
何階にも渡っていて各階ごとに観客席が設けられている。
舞台と観客席の間のスペースにも椅子が設けられ舞台を眺めることができる。
舞台を正面に見ることができる席は特別なスペースのようで、
贅沢な装飾がなされその特別感を演出している。
もちろんそこに座る人々もきちんとドレスを着こなしていて、
黒や紫のシックな彩りで着飾った人々はやはりここが特別な場所であることを思い知らせてくれた。
そんなスカラ座だったが、
まるでオペラ座の怪人そのままの世界(スカラ座だけど)にすっかり魅了された僕が案内された席は、
もちろん一番上の端っこ!!
座っていればもし運良く前の人の背が小さければ舞台の半分は見えるという、
なんとも素敵な席である。
ただこの一番後ろと言うのはどちらかと言うと運が良く立って見ることもできるが、
その前の中途半端な席の場合、座っても見えず立つこともできないなかなかつらい立場になりそうだ。
そんなラグジュアリーな空間に浸りながらざわざわした観客のざわめきを聞いていると、
シャンデリアの光がゆっくりと点滅し始めてオペラの開幕となった。
すぅっと空気に溶けていくように弦楽器の音が鳴り、
いつしかそれはオーケストラの合奏へと変わっていく。
その音の響きを聞いているとやはりここがオペラハウスで音の為に生まれた場所なのだということを感じた。
しばらく演奏が続き観客の耳が慣れたころ甲高いソプラノの声が鳴り響いた。
舞台の幕がするすると開き若い男女が壇上に立っている。
女性の声が会場を包んだ後は、男性のテノールの声が続いて鳴った。
すげぇ。
オペラなど普段見も聞きもしないが、
やはり生で聞くとそれが人間の声を極限まで鍛えた楽器であることに驚く。
人の声がこんなにまで美しくなるなんて。
イタリア語、しかもオペラということもあって意味なんてまったくわかってはいないが、
いま壇上にいる人たちがもの凄いことをしていることに鳥肌が立った。
話の内容はどうやら港のどこかで船に乗った男女がどーたらこーたらしている話。。。
つまりはまったくわかっていないのだが、その場面が延々と続いていく。
セットの作りはさすがスカラ座といったところで、
場面展開が始まると船の角度が変わったり見え方が変わったりと、
まるで手品のように良く考えられたセットの作りをしている。
なんだかんだと場面は進みようやくオペラが終わったのは2時間が経ってからだった。
いやぁ、オペラ凄い。。。がやっぱり中身がわからないとつらい。
会場は閉幕と共にざわめき始め、みながそそくさとどこかへ出かけていく。
終わった。と思っていたがなぜだかみな、荷物はそこに置いたままである。
話の内容がさっぱり見えないため、なんとなく終わったような気がしたが、それすらも確かではない。
さてこのまま帰ったほうが良いか、と迷っていると、ふと隣の若い男性と目があった。
彼の名はマルコ。
聞いてみるとミラノで音楽学校に通う学生なのだそうだ。
学校ではオペラを学び今日もオペラの勉強のために観覧に来たのだという。
もし良ければオペラの内容を説明するよ。という彼の提案をありがたくいただき解説をしてもらうことになった。
お互いのつたない英語力を補いながら聞き取った内容によると、
最初に出てきた二人はどこかの王国の王女と護衛の兵士で、
彼女の母親と3人で逃亡をしている最中なのだそう。
母親は秘薬を持っていて1つを飲めば生き返り、1つを飲めば永遠の死が訪れるそうだ。
そういえば母親がその薬を娘である王女に渡していた気がする。
ついでに王女と兵士は恋仲のようで、結局は王国に連れ戻される姫を助け出そうとして、
最後には殺されてしまうらしい。
それで母親が渡してくれた薬を使うのだが・・・。
といった話なのだそうだが、英語自体もあやふやだったので確かとは言えない。
彼によるとオペラというのは事前の予習が必要らしく、
話を知っていないとなかなか楽しむのは難しいのだそうだ。
オペラの歌詞はイタリア人でさえも聞き取ることが難しく、
良い席になると歌詞が席の前のディスクプレイに表示されるのだそうだ。
そう言えば僕らの前のバルコニー席にはディスプレイがありそこに何か文字が表示されていた。
そうなるといま僕がここでオペラを聞いているのは、あまりにも無謀であるということだ。
イタリア語も、ましてやストーリーもわからずこんなところにいるなんて。
彼はいいものを見せてあげるといい立ち上がり、着いて来てと言った。
素直に立ち上がり彼に着いて行くと広間のような場所に出る。
そこはシャンデリアで彩られた華やかな広間で観客たちがみな楽しそうに談笑をしている。
そうか、さっきの観客たちはここに集まっていたのか。
彼らの手にはちらほらとワインやシャンパンのグラスが見える。
黒やグレーのシックな装いをした彼らの姿はまさに上流階級のお手本のようなものだ。
そこに立つことも恥ずかしくはあったが、御のぼりさんを決め込んで彼らの姿を観察することにした。
ちなみにシャンパンの値段はグラスでも20ユーロほど。さすがに上流階級といったところだ。
しばらくするとチカチカとシャンデリアがゆっくりと点滅を始める。
これは開幕の合図だよ。そうマルコは言った。
そう言えば最初に開演するときもこのように劇場のシャンデリアが瞬いていた。
運良く出会った彼のおかげで多少なりともオペラ通に近づいてはいるようだった。
しかし、開幕?
そういぶかしむ。
既に2時間近くも劇をしたのにまだ後編があるのだろうか。
気になって壁にかかったオペラの演目表のようなものを見た。
【演目:TRISTAN UND ISOLDE】
Written di :RICHERD WAGNER
PRIMO ATTO 80 minuti
Intervallo 35 minuti
SECONDO ATTO 80 minuti
Intervallo 35 minuti
Trezo ATTO 80 minuti
って三部もあんのかよ!!!
いや、正直オペラを舐めていた。
まさかオペラの上演時間がこんなにも長いなんて。
休憩時間も合わせると計5時間半。どんだけ耐久レースなんだ、上流階級さん達は。
しかもマルコに言わせれば今回の演目だって、オペラ全体の一シーンでしかないらしい。
全てを見ようとするならば1日では足らないに違いない。
人間の集中力の限界2時間を平気で無視したこの設定。
休憩時間を挟んだからってさすがに5時間となると無理がある。
と、そんなわけでストーリーはなんとなく飲み込めたものの、
さすがに最後の第三部ともなると集中力は途切れ始めオペラの歌声を子守唄に時たま居眠りをすることになった。
時計の針はすっかり23時をまわるころようやくオペラの幕は閉じたのであった。
そして僕は思う。
上流階級への道は遠く険しい。と。
P.S.
Special Thanks for Marco!!
後から調べてみたら内容がぜんぜん違ってた。
返信削除それはそれでウケル。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%82%A4%E3%82%BE%E3%83%AB%E3%83%87_(%E6%A5%BD%E5%8A%87)