DATE:2009/02/01 Italy - Firenze -
芸術の都フィレンツェと言えども、雨が降っていては気分も萎える。
観光といえば町歩きが主な僕からすればなおさらだ。
吹き付ける冷たい風がいっそう気分を暗くさせた。
こんな時は美術館めぐりに限る。
傘を差しゆっくりと朝ごはんを食べてからフィレンツェ名物ウフィツィ美術館に行くことにした。
フィレンツェの町は町中が美術館と呼ばれている。
その町を歩けばその理由もわかってくる。
ローマほどの派手さはないがきれいに整備された町並みにはいくつもの細い路地が走り、
その角を曲がるたびに絵のような町並みが目の前に広がる。
曲がりくねった道は迷路のように旅人を迷わせるが、
それすらもまたフィレンツェの町を楽しむ一つのコツのような気がして楽しくなってくる。
雨降りの凍えた町にはいくつもの色とりどりの傘が揺れ、
黄みがかった石造りの町並みにアクセントを与えている。
濡れた石畳に映る赤や黄色が美しく雨のフィレンツェもまた悪くない、と思った。
宿から直接フィロッツィ美術館を目指そうと思ったが、
その建物は嫌でも目に入ってしまい明日行こうと思っていたのだが、
予定を少し変えて下見と称してちらりとのぞいてみることにした。
フィレンツェのドゥオーモ。
この町の最も良く知られた観光名所でその大きさから
ほぼ町中のどこからでも見かけるほどの存在感を持つ。
日本では「冷静と情熱のなんとか」の例のやつ。と言えばピンとくる人も多いだろう。
真っ白な大理石で建てられたこの建物はひたすら白く大きい。
建物全体としてはそれほど美しいという印象はなかったのだが、
そのディティールをじっくりと見ると見れば見るほど、
この巨大な建物が美しい彫刻で彩られていることに気づく。
入り口の門にはびっしりと花や草をかたどった彫刻が刻まれ、螺旋を描く柱がそれを囲む。
その上にはキリストが描かれた絵がかけられその下には聖母マリアや聖人達の姿が見える。
正面から後ろ側に回り込むとタイルや黒い大理石を使ったまた別の彩があり、
多彩な表情でこの建物全体が覆われていることに驚いた。
ドゥオーモの前には小さな聖堂があり、
金で彩られたきらびやかな門には観光客がひっきりなしにフラッシュを浴びせている。
ゴシック様式のドゥオーモの横には尖塔が立ち、ジェットという輩が設計した塔がある。
また100メートル以上もあるというクーポラの中にも登ることができる。
そこに昇るのは明日にまわして今日は中に入ろうとしたが、
残念ながらお昼休みの時間らしくちょうどお腹も空いたので僕も昼食を取ることにした。
フィレンツェと言えばTボーンステーキが有名である。
うまいものは全部食べる。と旅の前から決めている僕はもちろんそれが目当て。
なのだが、入ったレストランには残念ながらそれはなく仕方なしに豚肉のステーキと赤ワインを頼んだ。
が、これが美味い。
さすがフランスと並ぶ美食の国、イタリア。
そういえばスーパーなどを見る限りイタリアの物価はヨーロッパの中では安く、
そしてなぜか豚肉はじめ肉類の値段が以上に安い。
イメージにはなかったが意外にも良質な肉が手に入る肉食の国なのかもしれない。
そしてお決まりのワインもまた美味い。
たぶんボトル5ユーロもしないハウスワインなのだろうが、
これがまた値段に見合わないぐらいに美味い。
どうやら今日からまた1日1ボトルの肝臓によろしくないワイン生活へと突入することが決まったようだった。
グラス二杯分の赤ワインをゆるりと飲んで、ほろ酔い気分のままドゥオーモへと向かう。
聖なる教会にそんな状態で行って良いものかはわからないが、
そういえばキリスト教は儀式にワインを使うじゃないか。と言い訳をして中へと入り込んだ。
ドゥオーモの中は意外にもシンプルで表から見た印象とはがらりと変わって見える。
装飾性もあまりなくどちらかと言うと実用一辺倒の大集会場という感がある。
そう言えばドイツのケルンでも同じようなことを感じたなと思い出しながら
教会の中をぐるりとまわりその場を後にした。
そのハリボテのようなドゥオーモの作りがとてもキリスト教らしく逆に納得もした。
唯一気になったのはドゥオーモの丸い天井に描かれた絵で、
近くでもっと良く見てみたかったが囲いがあり遠くからしか見ることが出来なかったのが残念だった。
そう言えば今日は美術館めぐりのはずだった。
ドゥオーモから離れそこに向かう途中もやはりその町並みは美しくいくつもの寄り道をしてしまい
結局美術館にたどり着いたのは4時近くになっていた。
閉館までは3時間ほどしかなかったが急ぎ足で回ることにした。
ここの美術館で最も有名なのは何と言ってもやはり
ボッティチェリの書いた「ビーナスの誕生」だろう。
昔お世話になった某ペイントソフトの起動画像にそれが使われていて、
個人的にはなんとなくなじみがある作品だった。
しかしこの美術館で僕が最も気に入ったのは・・・「天井」である。
古い貴族の屋敷を改装してできたこの美術館の天井には、
イタリアらしいコントラストの高い絵がびっしりと埋め尽くすように描かれている。
その絵も教会の天井画のような大きなものではなく、
小さな動物や怪物や神話の登場人物などが細かく散りばめられた他に類を見ないものである。
絵は長さ100メートルはあるコの字型の回廊全てにわたって描かれていて、
一つとして同じ絵はない。
ところどころ作家が変わっているのか作風が異なる部分があるが、
全て一貫してこまごまとした絵が描かれているのが面白い。
この絵の技法を「グロテスク模様」と呼ぶ。
なんてことは最初から知っていたわけではないが、
さすがイタリア。日本人観光客も多く団体さんのガイドがそこにいるだけでこと細やかに説明してくれる。
なんでも当時この絵に似た細かな模様があるローマ遺跡が洞窟内で発見されたのがきっかけで
この細かい模様を用いた絵画技法が当時大流行したらしい。
イタリア語で洞窟のことを「ぐろてすく」と呼び、
それが転じて「グロテスク模様」となったそうなのだが、
模様自体が独自の発展をしていき想像上の怪物や奇形の人などが描かれるようになったことから、
グロテスクという言葉自体が一人歩きし、今日の「グロテスクな」と言った意味で使われるようになったそうだ。
なんともためになる無料ガイド講座だったが、
もちろん話なんて聞いていないふりで明後日の方向を向いて聞いていたのは、
まだ僕が日本人の奥ゆかしさを持っていると言う証拠でもある。
そんな天井を見上げて1時間ばかり過ごしてしまったが、
さすがイタリアの美術館。目にする絵のほとんどが聞いたことのある作家だらけだ。
ミケランジェロにボッティチェリ、ラファエロにレオナルド・ダ・ヴィンチまで。
ルーブル美術館のときのような心に刺さる作品はなかったが、
それでもやはりその作品のレベルの高さに満足した。
フィレンツェの夜の町。
雨上がりの石畳に白熱灯の明かりが反射し人々の足元できらきらと揺れている。
のんびりと散歩しながら帰り、途中白ワインを買って帰る。
宿にたどり着くと今日は無料のパスタがあるというので、
買ってきた白ワインと共にさっそくそれをいただく。
が。。不味ぅ!
まさかイタリア人がアルデンテもできないなんて信じられなかったが、
出てきたパスタはぶよぶよで、それでもイタリア人か!と何の罪もない人々の国籍を奪いたくなる。
買ってきたイタリアワインもハズレ。
イタリアの食の道は意外と厳しいらしい。
あの中田が泊まったというユースホステルの居心地は快適で、
ワインはハズレだったが飲めないほどでもないので、のんびりと夜を過ごした。
イタリア、フィレンツェ。ある日の一日。
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