DATE:2009/01/21 Turkey - Istanbul -
イスタンブールという町はなんと歴史に溢れた町なのだろう。
昨日のブルーモスクに引き続き、
アヤソフィアを訪れた僕はただそう思うしかなかった。
ローマ帝国滅亡後、
キリスト教の大聖堂を改築して作られたイスラムモスクであるその建築物は、
キリスト教の特徴とイスラム教の特徴の両方を持つ、
ユニークな建築物だ。
実際にそこを訪れてみれば
ローマ帝国を滅ぼしたオスマン帝国が、
この建築物を破壊せずにそのままイスラムのモスクとして利用した理由がよくわかる。
それほどまでに荘厳な雰囲気がアヤソフィアの中には漂っている。
キリスト教の教会から十字架を剥ぎ取り、
単に祭壇とイスラムの装飾がいくつかなされただけの内部は、
それだけでも十分なほど元々の完全さを示している。
柱の多くは精緻な装飾が施されていて、
中世の最高の技術がそこに残されている。
天井ははがれかけているが美しいアラベスク模様が描かれ、
ところどころにキリスト教のフレスコ画も見ることができる。
アヤソフィアの美しさはブルーモスクのものとはまったく違ったものに見える。
ブルーモスクが今もなお生きる生きた美であるとすれば、
アヤソフィアは保存された死の美であるようにも思える。
現在のアヤソフィアが博物館として保存されていることに象徴されるように、
アヤソフィアはいつの時からか呼吸を止め、
ただその美しさを維持するだけの存在になっている。
その雰囲気が荘厳な内部に満ち満ちていて、
入り込めばただ言葉を失い、厳粛な面持ちで場内を歩き回るしかなくなるのだ。
閉館時間までの3時間はあっという間に過ぎてしまい、
最後は急ぎ足でまわることになってしまったが、
まだまだ物足りなさは残っている。
単に美しいだけではない世界がそこにあり、
その歴史の重さは一度見ただけでは到底わからぬものだった。
僕はすっかりイスタンブールの町に魅了されてしまっている。
アジアとヨーロッパの境目としての情緒は、
すっかり大都会に押しつぶされて消えうせているが、
その中に潜む歴史は本物だ。
いつしかそれも時代に飲み込まれてしまうかもしれないが、
今ここでそれを感じることができることはとても幸運なことだ。
アヤソフィア。
忘れることのできない感動が僕の胸にまた刻まれた。
アヤソフィアを離れ、一軒の絨毯屋へと赴く。
普段ならお土産など買わない僕がそこで何をしているのか。
それはまた話せば長くなるような気がするが、
実は昨日ブルーモスクの中で客引きに誘われて、
一人の人物と出会ったのがきっかけだ。
MR.サディック。
日本語ぺらぺらの彼はイスタンブールに絨毯屋を構えている。
単なる絨毯屋ならば別に相手にはしないのだが、
この人なんだか面白い。
なぜか飾ってある大前研一とのツーショット写真。
どうやら彼と友達のようで、
MR.サディックの商売はVIP相手の絨毯販売のようだ。
そういえば店構えもなんだかよろしく、
飾ってある商品もひと目には安物とは思えないものばかり。
そんな日本語ぺらぺらの彼と昨日は仲良くなり、
ワインを何杯もご馳走になりながら楽しいときを過ごしたのだが、
やはりそこは商売もそこそこ絡んでくる。
という訳で一度絨毯を見てみなよと、今日また訪れることを約束したのであった。
一日で一気に落とすわけでなく、
単に商品を見せるだけでなく、
最初は接客に徹して客との交流を深めるだけ。
こんな商売の方法ができるやつを今まで見たことがない。
そんなわけで絨毯にはまったく興味はなかったが、
今日もまたMR.サディックのところへワインを飲みに訪れたのであった。
まずは楽しく談笑タイム。
現在の金融ショックの話や、
日本のクラブや裏の話などなどなど。
今までの現地人にはなかった深い話題で盛り上がる。
この辺がさすがVIP相手の商売をしている人だ。
話題の質が圧倒的に異なる。
と、ワインも2杯目になりそろそろ商売の時間だ。
トルコ絨毯と言えば世界的に有名で、
間近で見ると確かに美しくその評価は本物であることがわかる。
しかしこの絨毯。美しいだけあってそれ相応の値段がするもので。。
玄関用のマットレスでさえ最低10万円から。
家に敷く絨毯なんて50万円近くするものがほとんどなのだ。
こりゃ、先生。変えやしませんぜバックパッカーにゃ。
いや、バックパッカーじゃなくたって変えやしないし、
そんな高価なものを足蹴にするほど大きな器を持ってやしないのだ。
そんなわけで商売が始まってからはあの手この手で防戦一方だ。
とは言え、そこは商売上手。攻めてもあの手この手で攻め立てる。
「これなんてどう?お土産には調度良いと思うけど」
「いや、、いま帰る家ないんですよねー」
「そうかぁ。でも母親に何か買って帰るってのも良いと思うけどね」
「そうですねー(そう来たか)、でもそんな広い絨毯ひける所ないですよ。日本の家ですからねぇ」
「じゃぁ、こっちの絨毯は?日本の家にはぴったりだと思うけど!」
「確かにそれいいですね!(いや、、いい物なのはわかるけど)」
「でしょ?わかると思うけどこの品質でこの値段はなかなかないよね。料金は後払いで良いし」
勝負も後半戦に入りお互いの熱がこもって来る。
今までの話の中から僕の昔の年収もゴールドカードを持っていることも、
すべて把握済みのMR.サディック。
どうやら見込み客としては十分らしく彼の視線がかなり熱い。
「すごいいい。本当に欲しくなるね、サディックさんの絨毯は」
「そうでしょ。これは100年前のものを僕が手直ししたものなんだ」
「さすが、いいセンスしてる。伊達に遊んでないねw」
「まぁね。いろいろ見てきてるしね。これは本当におすすめ。財産としても残るよ」
「でもね、サディックさん。」
「なあに?」
「僕は旅をしているんだ」
ここからだ。ここからが勝負だ。
「僕は旅をしている。もちろん沢山のお金もかかる」
「そうだね。それもわかる」
「そして欲しいものも沢山ある」
「世界を旅していたらそうなるよね」
「その全てを持って帰るには僕のバックパックは小さすぎるんだ」
「・・・」
「もちろんそれを全て送るなんてこともできるけど、世界中でそれをやっていたら破産しちゃうでしょ」
「それはそうかもしれない」
「それに働いてもいない僕には、その絨毯は分不相応だと思うんだ。本当に良いものだしね」
「・・・」
「だから。いつか僕が本当に帰るようになった時に、またこの店に寄ることにするよ。」
「本当にありがとう。サディックさん!」
そうして僕は彼にお礼を良い、きらびやかなお店を出ていった。
僕はこの出会いを本当にうれしく思っている。
トルコという土地でこれだけのビジネスマンに出会える事は奇跡だろう。
久しぶりに「商売のこつ」ってやつも実体験で教えてくれた。
新旧が入り混じるこの場所で今日もまた人が息づいている。
明日はどんな出会いがあるかはわからない。
それでも今日の日の出会いを喜ぶことを忘れてはならない。
ないす・とぅー・みーと・ゆー。MR.サディック。
また僕の旅の中で特別な人にであった。
0 件のコメント:
コメントを投稿