2009年1月14日水曜日

世界一周(30)シリア/スークの迷い子







DATE:2009/01/14 Syria - Aleppo -


アレッポは町並み自体が世界遺産に登録されている歴史ある町だ。

その魅力が何かといえば、
やはりそれはスークにあるだろう。

中東でスークと呼ばれるそれは、
市場のような機能をした路地のことだ。

さまざまな店が路地の両側に立ち、
時には天井を屋根が覆いたくさんの人でごった返している。


4車線の道路に車が溢れる新市街から、
レンガ造りの城壁の中の旧市街へ入るとアレッポの雰囲気が一変する。

旧市街の中は入り組んだスークになっていて、
地図を持っていても一本道を外れれば迷路のような道に入り込んでしまう。
その悪魔のような迷路の中には、
多くのモスクが立てられ商店が並んでいる。

洋服から貴金属、布屋や肉屋、それに石鹸屋。

様々な種類の店が規則性なく並んでいる姿はカオスそのものだ。
そんななか買い物をする人々は真剣そのもので、
値札のない商品を粘り強く交渉しながら買っていく。

アレッポ石鹸と言えば聞き覚えがあるのかもしれない。

オリーブオイルで出来た石鹸は世界的にも有名らしく、
石鹸屋さんには石鹸が山積みに積まれている。
どうやら1キロいくらで売られているらしいが、
中にはお土産用のものもあって、
花や蝶などのきれいな彫刻がされていたりして
それを見て回るのも面白い。


スークを歩いていると何か騒ぎが聞こえた。

どうやら布屋の店員と誰かが言い争っている。
何事かわからないがイスラムとは異なる衣服をまとった女性たちが、
必死に布屋の商品を奪っているように見える。

周りは見物の人だかりが出来ていて、
ものめずらしそうにその喧騒を見守っている。

終いには店員がシャッターを閉めてしまい、
この騒動は一件落着となった。

残った女性たちは奪い取った布をかき集めて、
どこかへと持ち去っていった。

いったいなんなんだ?と思い、周りの人に聞いてみると、
「ジプシーさ」との答えが返ってきた。

ジプシー。

聞いたことがある言葉だが、
今までこの旅の中で一度も出たことがない言葉だった。

イメージでは旅をしながら生きる流浪の人々。
旅芸人、などのイメージもあるがどうやら彼女たちは違うらしい。

後で聞いた話によると、
アレッポの市外にはジプシーが暮らす地域があり、
彼女たちはその場所でまったく別の文化を持って暮らしているそうだ。

そう言えば彼女たちが着ていた洋服は、
この当たりで見るものとはまったく違い、
何かを継ぎ合わせたような独特な風貌をしていた。

ただその姿はとても美しかったように見える。

ヒッピーのような姿に身を包んだ人々の瞳は、
とても澄んでいて、そして鋭かった。

強く生きる民なのだろう。
この地で暮らす人々にとっては迷惑で仕方がないのだろうが、
その姿は僕の目にはただ美しく見えた。


スークの中を歩くと様々な出会いがある。

おもちゃを売り歩く、不器用な笑顔のオヤジ。
片言の日本語を話、「オカマ」を連発する変な一家。
美しい布切れを身にまとったジプシーの家族。

そのどれもが面白く、
スークの向こう側のアレッポ城に着いた頃には日が傾き始めていた。


最初はアレッポ城を見学して戻る予定だったが、
日が暮れはじめたこともあって、そこでしばらく城を眺めてから、
スークの中に戻りモスクを探すことにした。

城の前で休憩していると、
地元の子供だろうか、たくさんの子供たちが目の前を通る。

中東の子供らしくアジア人に興味があるらしく、
しきりに「ジャッキーシェン!?」と声をかけてくる。

最近気づいたのだが最初は中国人が多いから、と思っていたこのやり取りも、
単にアジアで知っているのが「ジャッキーチェーン」しかおらず、
しかも多くの移民によって知られている名前が「チーニー(中国)」
という事の意味でしかないようで、
あまり意味を含んでいない会話のようだった。

ジャッキーチェーンのまねをして遊んでいると、
つい盛り上がってしまい、最後にはカメハメ波をうつことになる。

少年時代、練習したが一向に気が出なかったカメハメ派だったが、
マサミと組んで彼女に吹っ飛んでもらうと、
シリアの少年たちには大ウケして何度もカメハメ波を撃つ羽目になった。

もし誰かシリアのアレッポを訪れることがあれば、
カメハメ波を撃ってみるといい。
もしかしたら誰か僕を覚えていて、
僕が教えたとおりに後ろに吹っ飛んでくれるかもしれない。



子供たちに別れを告げて、
スークの中に戻ると一本道をそれただけなのにやはり道に迷ってしまう。

迷子のまんまスーク探検を続けていくとなんとかモスクにたどり着き、
その巨大なモスクの中を訪ねてみることにした。

スークの中は裸足で歩かなくてはならず、
真冬の気温であるこの場所で、
その冷えた石の上を歩くのはある意味修行のようであり、
観光とは言えなかなかに堪える事であった。

50メートル四方はありそうなその大きな広場のような空間は、
すべて石で埋め尽くされていてイスラム信者たちは、
すいすいとその上を歩いていく。

僕らは急ぎ足で中を見て周り、
最後には凍えながらその場所を後にした。


もう夜中だったが、
新市街に戻り食事を取りワインを買って帰った。

シリアは中東の中では格段にお酒が安いようだ。
税金のせいなのだろうか中東諸国は、
基本的にお酒の値段が高くビール1本が1食分の値段なんてのもざらだ。
その中、シリアはビールもワインも他国の半額以下で買える。

その辺もまた近代化が進んだシリアらしいところかもしれない。
イスラム教徒もこの辺りではよくお酒を飲んでいる。

厳格なイスラム文化も時代の流れには逆らえないらしい。
若者は日に5度のお祈りをもう行ってはいない。
イスラムもまた、徐々に変わり始めている。


その買ってきたワインだが・・・。

激マズ!!

思わず吐き出してしまいそうな、
工場用アルコールのような味に、
コップ一杯も飲みきらずにその夜は眠ってしまうのであった。


明日は念願のトルコへ向かう。

イスタンブールにパムッカレ。
旅の中間地点がやっと目の前に迫ってきた。

アジアとヨーロッパの玄関口。
そこを越えればヨーロッパもラストスパート。
未知の世界、南米が待っている。


新たな旅がまたひとつひとつ目の前に近づいてきていた。


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