|
|
|
DATE:2009/01/09 Syria - Palmyra -
シリア唯一と言ってもいい観光地。
それがパルミラ遺跡。
荒涼とした吹きっさらしの大地の上に、
朽ち果てた遺跡がただ転がる。
シリアの首都ダマスカスからさらに3時間も東に走った場所。
そんな場所にパルミラ遺跡はある。
たどり着いたときは雨が降っていた。
イスラム教の休日である金曜日のため
元々ひっそりとしている町がその雨のためいっそうに寂しさを増す。
僕が乗ったバスには観光客は一人もいなく、
バス停からタクシーで遺跡の前に下ろされても
誰一人いない閑散とした場所だった。
これが観光地か。と疑うぐらいに何もなく、
唯一の救いの観光案内所も金曜日のためお休みだ。
しかたなく僕は唯一記された看板を頼りに、
遺跡の中へと入っていった。
これで誰かと一緒ならばまだ良いのだが、
今日はマサミとも別行動で久々の一人旅だ。
ぽつりぽつりと雨が落ちる暗い空の下、
遺跡へ向かっての一本道を歩いた。
しばらく歩くと遠くに遺跡らしい姿が見えた。
ズラリと並んだ石の柱は、
ただ誰に見られるわけでもなく並んでいる。
遠くからでもそれが巨大なものであることはわかるが、
その姿はどこか寂しく捨てられた過去をそこに感じる。
金曜以外ならば。雨が降っていなければ。
この場所はもっと賑やかなのかもしれない。
ただしかし立ち止まれば風の音だけが聞こえるようなこの場所は、
古代の廃墟を感じさせるには十分で、
ただその虚しさを感じさせるための装置にも思えた。
横たわる石柱に腰を下ろし、
しばらくの間、その風の音を聞くだけの時間を過ごした。
過ぎ去った過去の中で風だけが生き続けていた。
一人で風の中にいると色んなことを考える。
この旅のこと。別れた彼女のこと。これからの人生のこと。
全てがこの風の中では無意味なことにも思えて、
ボブ・デュランの「風に吹かれて」を少し口ずさんだ。
しばらくしてからまた歩き出すと、
遠くに人の姿が見えた。
その方向に向かって歩いていると、
どうやら子供たちが遊んでいるらしく、
遺跡の中なのに焚き火の煙が立ち上っている。
「アッサラームアレイコム」そう言って僕は、
その場所に入り込み、しばらく彼らと時を過ごした。
そう言えば。
この場所には空気銃で観光客を狙う性質の悪い子供たちがいる。
そんな話を聞いたことがある。
この子供たちもその一味なのだろうか。
子供の遊び道具とされ、
アラブ式のスカーフを顔に巻かれながらそんなことを思う。
ともかく今は彼らはそれを携帯しておらず、
空気銃で撃たれる恐れはない。
撃たれたときには必ずや反撃にでる。
そんなシーンを思い描いていた身には少し物足りないが、
まぁ、平和が一番ということだ。
別れ際、プロレスゴッコになり、
子供たちを蹴散らしてまた遺跡めぐりを続けた。
遠くから光の筋が射していた。
重苦しい曇り空の中に空が見えた。
ジグソーパズルの様にまばらだったその空は、
時たま僕の立つ世界へ光を届け、
いつしか青空を運んできた。
すぐ向こうにはまだ重たい雲があり、
この青空の世界と向こう側の世界がいがみ合うように、
雲の波が国境線を引いていた。
晴れ間から見るパルミラ遺跡。
少しは違って見えるかと思ったがその姿は大して変わらず、
相変わらず風だけがその世界に生きていた。
晴れたからだろうか、
人の姿がちらほら見え始めていたが、
それでもこの広大な遺跡を埋め尽くすには程遠く、
逆にその小ささが虚しさを増長させているようにも見えた。
観光客用のらくだが客を乗せて通り過ぎた。
その後をらくだ使いの少年が追いかけている。
客がスピードを出し過ぎているのだろうか、
少年の姿は必死に見える。
それが今日この場所で起きた唯一の事件らしい事件だった。
その他はただ風が吹くばかりだ。
こういう過去の楽しみ方もあるのだ。
無くしたものを確かめにいくような。
きっと僕が去った後も、
何百年もまた風は吹き続けるのだろう。
僕はその場所を後にした。。
風の音を残して。
つかめそうな程に大きな月が丘の上に見えていた。
丘の上で遊ぶ子供たちの声が唯一その場所で生きていた。
その夜。
とある飲み屋の屋上。
屋根裏部屋のようなその狭い場所に、
シーシャを吹かしながらシリア人の男たちと笑いあう。
旅の話を少し。シリアの話を少し。戦争の話を少し。
そうやって僕らは生きている。
誰かと語り合い、愛し合い、傷つけあい。
それでもやはり僕はこの世界が好きなのだ。
ただ風だけが吹くあの場所より。
0 件のコメント:
コメントを投稿