2009年1月7日水曜日

世界一周(28)ヨルダン/僕は彼女が好きだった。でも







DATE:2009/01/07 Jordan - Amman -


僕は彼女の事が好きだった。


いつも自分のことしか話さないし、
いつも仕事の話ばっかりだったけれど、
それでも彼女と話すのはいつも楽しくてドキドキした。

昔はいつも泣いてばっかりで、
連絡をくれるのは自分の都合が良いときばっかりで、
その度にいろんな国から電話しなきゃならなかったけれど、
それでも声を聞けるのはうれしかったし、
最近は少し強くなってしまって正直つまらなくもあった。
だけど日々成長していく彼女を見ているのは楽しかったし、
一日一日魅力的になっていく気がしていた。

笑った顔が大好きだった。
とてもキュートで陳腐だけど女神みたいだった。
一緒にいるだけで天国にいるみたいだった。


常識外れな僕と、常識的な彼女が、
なんで一緒にいられたのかはわからないけれど、
ちっとも息苦しくないその奇跡に僕は至極満足していた。



僕らにはテレパシーがあった。

なぜか色んなことに気が合って、
いつも食べたいものは同じだったし、
行きたいところも一緒で、
彼女が考えていることがすぐわかり、
それが超能力みたいでいつもうれしかった。


数日前彼女からメールがきた時に
その超能力で彼女が何を言いたいのかはわかっていた。

「好きな人ができた」

それが彼女が僕に伝えた言葉だったけれど、
覚悟していたはずなのにやっぱり僕はたじろぐしかなかった。
僕らが旅立つ前に決めたルールでもあったのに。


そして僕も彼女に告げた。

「僕もまた好きになりそうな人がいる」

なんでこんなにも大好きな彼女の他に
好きな人ができるのかはわからなかったが、
それでも僕はその子に引かれ始めていた。
自分勝手な事かもしれないけれど。

しかしこんなタイミングまで同じなんて。
この奇跡のテレパシー能力はなんて万能なんだろう。
冗談まじりにその思いつきを皮肉った。


最後の電話でたくさんのことを話した。

僕が彼女のことを好きなこと。
彼女が好きになった誰かのこと。
僕が好きになりそうな誰かのこと。


大切なものは失った時に気づくなんて言うけれど、
そんなのは嘘だ。
彼女は失う前でも、失った今でも大切なものだった。



僕は彼女の事が好きだった。
そしてそれはまだ過去形にはできていない。

そんなに簡単に諦められるほど、
世界中どこにでもいるような女の子じゃなかった。


世界一周に出る前に僕は覚悟を決めていたつもりでいた。

全てを失う覚悟を決めたつもりだった。

だからしょうがない。昨日はそう思えた。
でも一日たった今、僕はまだ後悔の中にいた。

あの時僕が旅立たなければ。
どんな一生が待っていたのだろう。

たとえば結婚とか。たとえば子供とか。

旅が終わった後。
そう考えていた夢の中の出来事が、
いまここに現実にあったのかもしれない。

旅に出て初めて、今ここにいることを後悔していた。


もちろん僕は矛盾の中にいるのはわかっている。

旅と彼女という選択だけでなく、
新しく好きになってしまいそうな女の子についても。

きっと最後は何かを選ばなくてはならないにしても、
僕にはまだその覚悟が足らなかった。


本当に大事なものを失ったことがなかったからかもしれない。



僕は取り返しのつかない人生の中にいた。

ただどうしようもない喪失感の中にいた。




イスラエルからの出国は入国に比べてあまりにも簡単で、
あっけなくヨルダンの首都アンマンへと戻った。

隣にはマサミがいる。

週末まで待たなくてはならないテラヴィヴ行きを諦めて、
僕と一緒にトルコまで旅をすることにしたのだ。

アンマンまでのバスの中、
僕らはほとんど口を聞くことがなかった。

「喪に服す」と言って、
頭の中の世界にもぐりこんだ僕をそっと彼女はほおって置いてくれた。



アンマンについてチェックインして、
ご飯を食べに行く。

そこでもやはり会話はほとんどなかった。

いままで飽きることなく、
毎日話しまくっていた僕らが。だ。



馬鹿じゃねーのか。俺は。

この面白い女の子を黙らせるなんて、どうかしている。

ただ黙々と食べる白けたテーブルの上で僕は思った。


沈黙の中で僕は考えた。
僕がふられた彼女のことを忘れることなんて絶対にないだろう。
ましては嫌いになることなんて。

いつまでも僕は彼女のことを好きでい続ける。

それはきっと間違いないことなのだ。

時が立ち、好きがただの特別に変わるまで、
それを待つ以外には方法なんてありゃしないのだ。


僕の中で何かがふっきれた。

それは単に逃げただけかもしれないし、
問題を棚上げにしているだけかもしれないけれど、
今の僕にはそれが一番の解決策だと思った。




「よし、今夜は飲み明かそう!」

そう言ったマサミに僕はイイネと答えて、
早速、お酒とチーズとピクルスを買い込んで、
部屋へと戻り晩酌を始めた。

こうして一日も持たない「喪に服す」はあっさりと終わりを告げ、
いつもの旅の中に戻っていった。

たくさんの話をした。

今日であったパレスチナ人のおじいちゃんの話。
イスラエルの話。
そしてこれからの旅の話。

途中から偶然再会したサトル君や宿の他のメンバーも混じって、
わいわいと旅の仲間は盛り上がった。



僕は大切なものを失った。ほんとうに、ほんとうに大切なものを。

それでも僕は今、ここにいることが正しかったと思える。



あなたに会えて本当によかった。



僕はそう書いた最後の手紙をポストの中に放りこんだ。

そしてまた僕は旅を続けた。


1 件のコメント:

  1. いろいろあったのですね。
    安っぽい言葉で恐縮ですが、
    きっと“縁”がある人とはまたいつかどこかで必ず何かが起きるものなので、
    運命に身をゆだねてみるのもいいかもしれないね。
    ちなみに私はここ8年、同じ人と2度やり直しました。
    が、3度目の正直にはならず…(苦笑)。
    もう流石によりが戻ることはないと思うけれど(100%とは言いがたい)、
    誰と出会おうが、誰を好きになろうが、誰と付き合おうが、誰と結婚しようが、
    “縁”のある人とはまた巡り合ってしまうものなんだなぁと思いました。
    今の隣の席の同僚の大学友人がその元彼と同期だったり(本人には言っていないけど)、親友の会社後輩が先日結婚した相手がまた元彼の会社の後輩(大学が同じなので●大OB会で絶対に合っているはず)だったり、
    まだまだ蛇のように私に絡み付いてます(フラれたのは私なのですが)。

    もちろん、今までで一番と思った人以上の人が現れるかもしれないし。
    でも、ひとつくらい忘れられないほど好きになった人がいるっていうことも宝物になるし、そういう経験ができない人がいる分、すごく幸せなことなんだと思います。

    人生何が起きるかわからないから面白い。
    だから、生きるって素晴らしいよね。
    生きているだけで幸せ。

    もしココロが折れそうになった時は、
    騙されたと思って、氣志團の『愛羅武勇』という曲を聴いてみてください。
    氣志團好きじゃなかった人も結構回復しました(笑)。

    長くなってしまってすみません。
    思わずコメントしたくなってしまって。
    不適切なら削除してくださいまし。

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