DATE:2008/12/25 Egypt - Dahab -
目の前を泳ぐ魚の群れは、
遮るもののない透明な海の中をゆったりと泳いでいる。
水面下には珊瑚のカーペットが、
海底を覆いつくすように一面に広がっている。
照りつける太陽を浴びた波の影が、
ゆらゆらと姿を変えながら珊瑚の上で遊んでいる。
すぃっ。
そんな音が聞こえるように、
目の前をオレンジと緑に染まった極彩色の魚が通り過ぎた。
すぃっ。
僕もそれを真似てフィンをひと蹴りし、目の前の魚を追跡する。
魚はしばらく目の前を優雅に泳いでいたが、
最後はめんどくさそうにプイと尾びれを翻し、
反対側へと戻っていった。
魚に別れを告げて穏やかな波の中、
あまりにも近い珊瑚に身を縮めながら、
水面をゆったりと流れていく。
フィンを蹴るのをやめ、ただ波に揺られる。
目の下を映画のような風景が流れていく。
魚のような気分。ではなくクラゲの気分。
ぼんやりと日を浴びながら波の中をたゆたった。
シュノーケルの息づかいと、波の立てるカラコロとした音だけが、
僕の世界を満たしていた。
重い機材を背負い海の中に入ったとたん、
目の前には真っ暗な黒い世界が広がっている。
まるで宇宙の真ん中に放り出されたような気分。
まだ足元には珊瑚や岩と、地球の名残があるのに、
たった一歩踏み出すだけで宇宙へと旅立てる。
海岸線から10メートル。
ぽっかりと海に空いた果てしない落とし穴。
ブルーホールとはそんな場所だ。
宇宙と地球の境界線のような壁をゆっくりと降下する。
地球側にはしがみつくように珊瑚が生息し、
そこを棲家とする魚たちが宇宙へと放り出されないよう、
おっかなびっくりに壁のあたりを行ったり来たりしている。
色鮮やかなそれ達は壁を染め日々姿を変えている。
赤い小さな魚の群れが壁に命を吹き込んだ。
真っ暗な宇宙の中、何かが動いたのが見える。
ぼんやりとした青い光の中、
ゆっくりとそれは形を取り戻し、
最後には巨大なナポレオンフィッシュへと姿を変えて通り過ぎていった。
いつの間にか世界は青へと変わっている。
水深30メートルの世界はただただ青に塗りつぶされて、
魚も珊瑚も人でさえも本来の姿を失っている。
それでも足元はまだ果てしない海が口を明けたまま。
ほんの少し浮力を減らせば、その世界へ落ちていく。
その気はないがほんの少しの間、
その暗い海の底をじっと眺めていた。
世界にはまだ僕らが知らないことがいくつもあるんだ。
そんな今年のクリスマスプレゼント。
シュノーケルのフィンが外れたり、
ダイブ中に機材が壊れたりしたけれども、
それもまたエジプトの小さな物語。
世界最高の海、紅海での出来事。
深夜1時。
ダイバーたちを乗せた船はシャルムシェイクの港をゆっくりと出航した。
目指すは紅海の底に沈む時を止めた船。
沈む船の中に何を見る?
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