2009年7月8日水曜日

世界一周(46)パナマ/世界が行き交う地















DATE:2009/07/08 Panama - Panama City -


中米に入りパナマ一日目。
ざわめく空港の中、目を覚ました時には既に朝日は昇り7時をまわっていた。

中米に入った、そんな実感を感じさせるものは特にない。
乗り込んだバスの人の中に黒人が多く混じるようになったぐらいかもしれない。
それでもなぜか僕はバスの中、妙な高揚感のようなものを感じ始めていた。

それはやはりパナマという新しい国へとついたということでもあったし、
中米という新たな世界へと入り込んだという事でもあったのだが、
恐らくはその到達したという事実が旅のカウントダウンが始まったという現実を示していて、
それがまた旅というものに妙な刺激を与えているような気がした。


中米パナマ。この地から始まり北上を続ければ終にはアメリカへとたどり着く。
そしてそれが僕の旅の終着点であった。

それはまだ1ヶ月以上も先の話でもあったが、
アメリカへと陸続きで続くこの国が妙な現実感をもたらしていた。
終わりに向かう北上。それが今始まったのだった。


パナマの街中を走る路線バスはチキンバスと呼ばれ、
それはその名の通りブレーキの存在など忘れたように走る暴走車。
市民はでこぼこ道を跳ねるように走るチキンバスのなか、
硬いパイプ椅子のような席に座り上下に飛び跳ねながら各々の目的地へと向かっていく。

そんなチキンバスに乗りながら空港を抜け市外を目指した。
空港を出たばかりのころはのんびりとした風景だったそれが、少しずつ街の風景に変わっていく。
乗車する市民もまた様々で買い物帰りのおばちゃんや仕事中のサラリーマンもいる。


田舎の景色だった車窓の風景は工場が混じり商店が混じり、
ついには高層ビルの姿が混ざり、最後はビルが乱立する大都市の姿へと変貌した。

パナマの首都パナマシティーは驚くほどの大都市だった。

南米も北部から来た僕には高層ビルの群れは久しぶりで、
なんだか東京へ戻ってきたような感覚が少しうれしくなる。

それに不安だった治安の問題もビルが立ち並ぶ新市街にいる限りはそれほど留意する必要もなさそうだ。
それは南米でちょっとばかり気疲れしていた僕にとっては、
何にとってもうれしい事でもあった。


宿にチェックインした後は昼食でも作ろうかと近所のスーパーへと向かう。
近くの食堂で食べても良かったがスーパーまわりはある意味で旅で最も楽しい事でもあったし、
その国の物価を実感するのに便利な場所でもあったので最初に行ってみることにしたのだ。

パナマの大型スーパー。
実のところ、これほどパナマという国を良く表している場所はなかったように思える。

パナマという国に多くの情報があったわけではないが、
それでも僅かながらの知識でこの国が貿易の中継点として栄えてきたという事は知っている。
パナマ運河という重要な運河を持つこの国。
そんな知識がなくともスーパーに行けばその事実がすぐにわかる。

酒、日用品、その他果物などなどなど。

その全てが他の国に比べて圧倒的に安いのだ。
特に顕著なのがアルコール類でずらりと並んだワインやウィスキーのボトルが、
輸出国で買う値段とそう変わらない値段で並べられている。

例えばアルゼンチンで良く飲んだトラピチェのワイン。
アルゼンチンで買えば6ドルほどの値段だが、
コロンビアでは15ドル近くもした。
だがここパナマシティーでは8ドル程の値段で買うことができる。

距離的に考えればコロンビアの方が近いのだが、
それでもまだパナマの方が圧倒的に安いのだ。

この事実はパナマに入ってくる輸入品への関税の低さ、
そしてその運搬コストの低さを表していた。

またそこに並べられたワインの生産国もまた様々だ。
オーストラリアからフランス、スペイン、カルフォルニア。
世界のワインの生産地全てがそこに揃えられている。


世界貿易が行きかう港町。
クーラーの効いた広く綺麗な大型スーパーの店内で僕はひたすらその事に驚いた。

わかり易過ぎるぐらいわかり易い世界経済の仕組みがそこにあったのだ。

世界中から集められた物で溢れ返る街。
僕はだだっぴろい店内を空腹のまま歩き回るうちにすっかりこの街が気に入っていた。
欲しい物がすぐに何でも手に入る。それでこそ都会ってもんだ。
それだからこそ僕は都会が好きなのだ。


なんだか大型スーパーの充実度にすっかり満足してしまい、
今日の夜の献立やらを考えビールやらを流し込んでいるうちにすっかり昼になってしまった。

なにせパナマは暑い。
南米も後半に入ってからアマゾンとガラパゴス以外はほぼ高地、
昼間でも冬のような気候で旅をしてきた。
ジャケットは既にコロンビアを出るときに脱いでいたが、
それでもジトッとするこの暑さには観光の勢いも殺がれるというもの。
ビールの瓶が2本ほど空になり、やっと椅子から立ち上がった時にはもう2時を回った頃だった。



一応。そう一応だがパナマシティーの旧市街の町並みは世界遺産にも登録されている。

そんな町並みを期待して行ってみるもやっぱりそこは何の変哲もない町並みで、
やっぱり最近登録された世界遺産ってなんだかね、と思わざるを得ない所。

暑さでだれた体を無理やり起動させてきた事もあって、
なかなかに残念なところではあった。

とは言え初めての街の事、外に出てみるとそれなりの発見はある。

さすがに旧市街ともなると町並みは新市街と異なり、
高層ビルの姿はなくなり古い町並みが姿を現す。

その古さの為か多くは打ち捨てられた姿か、
新しいビルを建てようと目下建設中の様子だ。
治安の良さそうな新市街と異なり旧市街はやはり少し危うさを含んだ所だ。
一歩道を外れた奥には確実に狙われる危険のある、静けさを宿している。

だからこそというか、ビジネスマンが行きかう新市街と異なり、
旧市街には活気溢れる市民の姿がある。
その誰もが小奇麗な格好をしているわけではないが、
小さな商店が軒を連ね客に向かって声を上げる姿はこの街の姿のようだ。

驚くべきはその商品の物価でどこからか古着が輸入されてきたのか、
Tシャツなんかは1ドル程度の値段で購入することもできる。
パナマの運輸ビジネスの恩恵は至るところへと注ぎ込まれているようだった。

そんな街の中面白いのは民族衣装姿の女性が少なからず混じっていることで、
後で調べてみるとクナ族というカリブ海に浮かぶサンブラス諸島の民族で、
彼女たちの纏う美しい衣装は「モラ」と呼ばれ観光客にも人気が高いそうだ。
太いもこもこの線のような刺繍は独特でなかなか面白い。

旧市街の観光地へ行くと沢山のクナ族の女性がお店を広げ、
観光客へとあまり熱心ではない様子でモラを売っている。
他にもアクセサリーなども売っており、僕はその1つを買った。

旧市街の海側からは新市街の高層ビルが見える。
色鮮やかなクナ族の女性と灰色のビルの対比がなんだか面白く、
パナマもまたいろいろなのだな、と思った。

目の前の海を右手に向かえばパナマ運河の水門へとたどり着く。
海の上にはいくつか浮かぶ船の姿があり、それがこれから運河を越えていくものなのか
それとも運河を越えてきたものなのかはわからなかったが、
なんとなく長い旅を称えたい気分になる。

目の前の太平洋からカリブ海へと続く道。

カリブ海という言葉の響きはなぜかロマンを掻き立てる。
これからメキシコに至るまで見ることがない陸の向こうに広がる海の事を少し思った。


バスに乗り新市街へと戻った。
建物を見上げることの多いこの街はやはり旧市街とはまったく違って見える。

昨日からの移動の疲れからか仮眠を取るとそのまま眠り込み、
結局朝までベッドの中でぐっすりと眠った。

今夜の為にと冷蔵庫で冷やされたワインは、
コルクの蓋を開けられることもなく待ちぼうけの冷たい一夜を過ごしていた。

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