DATE:2009/04/26 Argentine - Buenos Aires -
今日の試合のカードはリバープレート対ジムナシアである。
と言ってもサッカー通でもなんでもない僕には、
それがどういうチームなのかはまったくわからないが、
どうやらブエノスアイレスにはボカ・ジュニアーズとリバープレートという2つのチームがあり
人気を二分する人気チームのひとつらしかった。
とはいってもボカ・ジュニアーズの人気のほうが圧倒的に高く、
実のところ僕もその試合が見たかったのだが残念ながら今週の試合は、
別の場所で行われるらしく仕方なく、といっては何だがリバープレートの試合を見ることになったのだった。
アルゼンチンのサッカーの試合。
と言うとなんだかデンジャラスなイメージが付きまとう。
試合中の暴動だとか、試合後のファン同士の抗争だとか、
実際に銃やナイフなどの凶器が表舞台に出る血なまぐさい部分も多いと聞く。
今日見に行くリバープレートの試合はどちらかと言うと優等生なチームらしいが、
そうは言ってもアルゼンチンサッカー。見る前から少し緊張をしていた。
試合は夜になるためそれまでは時間がある。
サッカーついでといっては何だが、
せっかくなのでボカ・ジュニアーズの本拠地があるボカ地区へと行ってみることにした。
ボカ地区はカラフルな家が立ち並ぶアーティスティックな場所である。
アルゼンチンタンゴの発祥の地、ブエノスアイレスらしく
観光客向けの路上タンゴが見られることでも有名だ。
ボカ・ジュニアーズのスタジアムはそんなカラフルな家が立ち並ぶ場所と
目と鼻の先にあるが、そこはあまり治安のよい場所ではないらしい。
実際まわりを歩いてみたが確かに一歩奥に入れば危ない雰囲気が漂う場所であった。
とはいえ観光地化された場所にいるだけならば問題はない。
確かにとあるアーティストから始まったという独特な色彩を持つ建物群は見ていてなかなか面白い。
メインの通りにはたくさんのタンゴリアがあり、
店前のショーに多くの観光客が目を奪われている。
いくつかのショーを見ているとなんとなくタンゴの良し悪しがわかるから不思議なものだ。
上手いなと思う踊り手はまず顔が違う。
作り笑顔が自然というか素直に楽しんでいるのはタンゴというものを本当に愛しているかもしれない。
そういう踊り手は男女二人の息がぴったりと合っていて、
くるくると回る踊り手に観客はただただ目を奪われるのであった。
行きがけに昼食を済ませてしまったこともあり、
タンゴのタダ見に精を出した後はカラフルな町並みを歩いて回る。
とはいえそんな町並みはほんの一角だけで10分も歩けば端から端へとたどり着いてしまう。
町並み自体もテーマパークのようであり不自然この上ない舞台にすぐに飽き、
ドブ川の匂いのするボカ地区の先端についてすぐこの場所を後にした。
少し時間があったので土日であるからか昨日よりも沢山のお店が開かれている蚤の市を冷やかして回り、
一度宿に戻った後にすぐスタジアムのあるベルグラーノへと向かった。
まだ試合には早かったがベルグラーノにはスタジアムだけではなく中華街もあるという。
アルゼンチンの中華街とはどんなものか気になったのと、
日本食材が手軽に手に入るという情報に最近の自炊熱がぴぴっと反応したのだ。
スタジアムまでは電車に乗って行く。
レティロにある電車の駅まで行って目的地の切符を買う。
そう言えば市民の足に電車が使われているのは南米では珍しい。
久々の電車に少しわくわくしながら早々と電車に乗り込み発車を待った。
そんなわけで電車がたどり着いたのはベルグラーノC駅で、
目的地のベルグラーノB駅とは4キロほど西に離れた別の場所なのであった。
久々の電車に興奮し過ぎたからか目的地の確認を怠っていたようだ。
でもベルグラーノBとベルグラーノCって判りづら過ぎじゃね?
というわけで道もわからぬままなんとなくの方角へぐんぐんと進む。
どうやらこの辺りは高級住宅町のようで中心近くの町の雰囲気とはかなり異なっている。
暗い危険な雰囲気は少しも感じず、ただ平和そうな町並みだ。
さすがに大都会ともなるといろんな場所があるものだなぁ、と感心する。
日本にいるとそれほど感じることはないが南米やアジアにおける格差というのは、
本当に目で見てわかるほどに現実に存在する。
貧しさの象徴は路上に溢れる浮浪者であったり、ベニヤ板で作られたバラックだったりする。
一方、豊かさの象徴は緑あふれる街路樹であったり、真っ白な3階建ての豪邸だったりする。
もちろんその格差を象徴するように豊かな家にはほぼ必ず鉄格子の窓が嵌められていて、
たいていの家には警備員がついている。
こういう世界を見ていると日本の一億総中流な世の中も、
それはそれで意外と悪くないものなのかもと思えてくる。
富の総量が同じである以上、豊かさは貧しさを生んでしまうのだ。
だれもが同じであれば能力があるものが我慢するだけで平和に収まる。
能力があるものが豊かさを享受する世界は賛成だが、
それに伴うリスクを考えるとそれはそれで面倒だとも思ってしまう。
つくづく平等というのは難しいものだと感じる。
天秤を持つのは誰か。それによって常にその傾きは変わるのだから。
見知らぬ道を歩くのに少し警戒してはいたが、
意外にも安全な高級住宅街を後にするとついに赤い看板が立ち並ぶ中華街が見えてきた。
海外の中華街というとただ中国人が暮らす町というイメージがあったが、
どちらかというと日本の横浜中華街を思い出すような町並みをしている。
その証拠に多くの地元のアルゼンチーナが中国文化に触れるためなのか買い物をする姿が見える。
お土産屋も多く中国的な赤い扇子やら紙のランプシェードやらも多く置かれている。
その中で結構面白いのが、明らかに日本のものと思われる、
日本語で書かれたデザインのものや商品が置かれていることだ。
そう言えば海外の中華レストランには「SUSHI」と書かれた看板を良く見かける。
実際に中華系のスーパーなんかに行っても寿司は売られている。
中身はやっぱり寿司だかなんだか良くわからないものだが、結構売れているようだ。
そう思うと中国人というのはつくづくビジネスが上手いなぁと思ってしまう。
ブラジルのサンパウロでも思ったが「売れる」と思ったものは、
なんのお構いなしに売りまくるのが彼らのビジネススタイルで、
逆に言うと日本人はディティールにこだわり過ぎて多くのチャンスを失っている。
著作権やなんだと権利の話は置いておいて、
品質やら納期やら実際の利用にはまったく関係のない部分で努力をしているのが常だ。
もちろんそれが「MADE IN JAPAN]のブランドを作ったのは確かだが、
それは時と場合によるだろう。
日本人が単なる置物のお土産に多くの時間と労力をかけている間に、
中国人は3分の1の品質と時間でものを作り、2分の1の値段で売るのだ。
それは時と場合によるが多くの場合において中国人の作り方のほうが正しい。
こと単なるお土産に置いては実際の話「漢字」さえ書いてあれば外国人は満足なのだ。
そのニーズを解決するためにフォントやデザインに事細かく拘るのは、
職人としては合格だがビジネスマンとしては才能に欠ける。
「こだわる」事と「こだわり過ぎる」こと。
そのバランスが最も大事なのだと中国人のビジネスを見ているとそう思う。
2分の1の値段と時間でそこそこのものを作り、2倍の値段で高品質のものを売る。
つくづくビジネスとはその見極めが肝なのだなぁ。と思った。
しっかしさすが中国の食材店だ。
肉から魚、茸類や野菜までありとあらゆる食材が取り揃えられている。
これを見ると南米のスーパー、しいては日常の食生活がいかに貧しいかを考えさせられる。
逆に言うと日本を含めアジアの食の豊かさは突出していて、
それは何故なのだろうかと疑問に思う。
地理的に食物が育ちやすい地域であることは間違いないが、
それ以外に条件があるとしたらなんだろう。
思い当たるのは「肉食」かどうかというものだ。
欧米諸国はじめ南米も多くは肉食を主にした食生活を送っている。
よく考えてみると「肉」という食材においては生で食べる事が難し以上、
単に「焼く」という調理方法が最も栄養分を壊さずに栄養を摂取できる最良の方法なのかもしれない。
逆に野菜は生で食べるのと調理するのを選べ、
さらに調理することで栄養分が変化するものもある。
また調理によって水分が減り食べられる総量が増えるものがほとんどだ。
食べやすさという面でも調理後の方が食べやすい。
フランスのように土地が豊かな国は除いて、
欧米諸国の食文化が発達してこなかったのはそんな理由もあるのではないかとも思える。
別にだからと言って彼らが不幸というわけではないが、
パスタに塩をかけて食べて平気な顔をしている彼らを見るとなんだかなぁ、と思ってしまうのは確か。
食生活とはつくづくアジア人で良かったなぁと思える瞬間でもあるのであった。
さてそんな中華食材店。日本の食材はというと・・・あるわあるわ。
しょうゆはもちろん、わさび、ほんダシからうどんに、なんと日本酒&焼酎まで。
南米にはないだろうと思っていたものがほとんど揃っている。
これだけの需要があると思われる食材なのになぜ日系の店がないのかが不思議だが(知らないだけ?)、
ともかく中華系の木耳などの食材と一緒くたになって売られている日本食材はある意味壮観でもある。
ついでに売られている韓国系の食材と合わせてじっくり見て周り、
単なるスーパーに小一時間ばかりの時間を費やしてしまった。
調味料や食材を見ているといくつもの想像が沸いてくる。つくづく料理は良いなあと思った時間であった。
まだ試合開始まで2時間近くはあったが、
暗く前にスタジアムに着きたかった事もあり買い込んだほんダシを懐にゆっくりと会場へと向かった。
聞いていた通りスタジアムの回りもまた高級住宅街のようで、
特に危ない雰囲気を感じることはなく会場までたどり着いた。
ただし既に試合前の厳戒態勢は引かれているようでスタジアム近くになると、
人通りはまだ少ないのにやたらと警備員の姿だけが目立った。
どうやら民間の警備団体だけではなく警察自体も警備に当たっているようで、
「POLICIA」と書かれた蛍光色のベストを身にまとっている人が目立つ。
ひとたび暴動が起これば街中で最も危険な場所となるこの場所を、
国家権力を使って守るのは当然のことなのかもしれない。
そんなわけで30ペソ(約1000円)のチケットを購入した後に、
そのポリシアにかばんの中をチェックしてもらうとようやくスタジアムの前までたどり着いた。
会場前にはテレビレポーターのような怪しげな金髪サングラスの男がいて、
しきりにサポーターにインタビューを繰り返している。
会場前はまだ試合まで1時間以上もあるにも関わらず熱心なファンが詰めていて、
大声でチームソングを歌っていたりする。
そんな陽気な彼らがいつ暴徒と化すのかはわからないが、
それはそれ。サッカーを楽しんでいることには変わりない。
彼らにカメラを向けるとうれしそうにポーズをとってくれる。
なんだかんだ言って彼らもいい奴らだ。アルゼンチンサッカーに抱いていたイメージが少し崩れた。
NO.500以上もあるスタッフナンバーのベストを着たスタッフにもう一度カバンをチェックされ、
持っていたチケットを自動改札機の中に通すと会場の中へと入った。
会場に入る前に沢山のポスターやらチラシやらを配られて、
いつの間にか両手はそれでいっぱいになっている。
サポーターグッズも売られていてチームカラーの赤と白の旗が幾つもはためいていた。
会場に入ってみるとまださすがに1時間以上も前であることもあり、
人はちらほらとしか見えず広いスタジアムは少し寂しくもある。
しかしこれが埋まる姿を考えると心が少し跳ねた。
前回のサッカー観戦が北京でのオリンピックであったため、
さすがにスタジアムの規模や大きさには驚かないが観客数4万近くは入るだろう、
なかなかに大きなスタジアムである。
スタジアムは敵チームとホームチームで分かれているようで、
ほんの一部しかない敵チーム側のスタンドにはちらほらと水色の旗が振られている。
広いスタジアムの中のたった1区画。
500人も入らないだろうそのスペースが彼らのこの場所での立場を示していた。
日本の試合のことは良く知らないがさすがにここまでの差はないだろう。
しかしながら試合終了後は優先的に敵チームの応援席から帰され、
衝突を防ぐため時間を置いてホームチーム側が帰されるシステムを取るほどに、
実際のところはアウェーでの応援は危険が伴うこともあるらしい。
そう考えるとそこまでのリスクを取って応援に来る人々の数が限られているとしても不思議はなかった。
それに思った以上にアルゼンチンのサッカーは地元に密着したもののようで、
地元以外のチームのファンはほとんどいないそうである。
なので遠い別の地から来たアウェーチームの応援は少ないことは当然でもあるようだった。
スタジアムには赤と白の応援布がフェンスのいたるところに張り巡らされている。
そこからは熱狂的なファンからの野次が向こう側に見える青い旗に向かって飛ばされ、
怒声のようなその声はスタジアムの中に響き渡った。
まぁ、これはこれでアルゼンチンサッカーらしい。
すっかりと暗くなったスタジアムに紙ふぶきが舞い、
しばらくすると選手たちの練習が始まった。
日本のようなチーム全員での練習を想像していたが出てきたのはゴールキーパーのみで、
それも10分ほどキャッチの練習をするとすぐに引き上げてしまう。
そうこうする内に試合の時間は15分前へと迫っていた。
スタンドとフィールドの陸上競技用トラックを貫くように、
空気で膨らんだソーセージのようなチューブが一直線にフィールドに向かって伸びた。
どうやらこれは敵チームの選手をスタンドから投げられるものから守るために作られたもののようで、
その証拠にホームチーム側の方はそれがなく、敵チーム一方のみに伸びている。
少しするとそのチューブからまず敵選手が現れた。
当然のごとくブーイングが会場全体からこだまする。
ついでホームの選手が登場するとそれがいっせいに拍手へと変わった。
選手は少しの間、ウォーミングアップのために軽い練習をすると、
審判の笛が鳴り中央のラインへと一列へと並んだ。
会場はいつの間にか三分の一以上が埋まっていて、
さっきまで肌寒かった空気が熱気のためなのか少し暖かくなってきている。
審判が挨拶を終えコイントスが終わりついには試合開始の時間だ。
審判の笛が鳴りアウェーの水色のユニフォームの選手が小さく横に蹴りだすとキックオフとなった。
試合序盤から観客が悲鳴を上げるほどの大歓声。を予想していたが、
意外にも意外に静かな試合の立ち上がりである。
怒声と罵声が飛び交うアルゼンチンサッカーなんてのを予想(期待?)していたが、
そこはサッカーを愛する国だけあってマナーは最悪なんて事はないようだ。
これならば北京での中国人の観戦マナーを知っている僕から見れば、
普通すぎると言ってもいいかもしれない。
むしろ時折聞こえてくるチームソングに皆で声を合わせ歌う姿はとても気持ちよくもあった。
そんなある意味で期待を裏切られたアルゼンチンサッカーだが、
試合は両者決め手を欠き淡々とした立ち上がりのまま後半を迎える。
後半戦の入場はなぜか両チームともチューブから出てくる。
もしかしたら不甲斐ない味方チームの選手への攻撃もアルゼンチンサッカーではありなのかもしれない。
そうこうする間に10分ほど経過しホームチームの選手の1人が10番と交代。
するとまるで魔法のように一気に試合の流れが動いた。
右サイドから切り裂くように突破をし中央ではなく、
逆サイドへとボールを振る10番の動きに敵チームが守備を崩しだす。
さすが10番!と思っている間にロングパスが上手く決まり、
ついに1点先取!会場が一気に膨れた!
ホームチームの先制点。さすがにその歓声は凄い。
会場全体が「ウォー!!」という声に包まれ、続いてチームソングの合唱となった。
僕も歌詞がわかるわけではないが一緒に口ずさむ。
サッカーでも何でもやっぱり生で試合を見る一体感っていうのはイイ。
会場の一体感に酔いしれながら待望の1点を祝った。
ワールドカップの時以外にサッカーを見ることがない僕が選手をわかる訳もなく、
ともかくホームチームを応援していただけだが、
名前もわからないが小さくて上手い奴がその中にいて勝手に彼を応援することにして、
その小さな男のにわかファンになった。
ついに後半10分ほど前になり敵が焦りだしたころ、
なんと相手チームのキーパーが退場。
さらにロスタイムにオフェンスの一人が退場と、終には11人対9人に。
もちろんそれでは追いつけるわけもなく、
そのまま1対0のままホームチームの勝利で試合は終了!
平穏無事のままホームチーム勝利という結果で幕を閉じたのであった。
いやぁ、よかったホームが勝ってw
気分良く試合に勝ってご機嫌なホームチームの人たちと一緒に駅へと向かう。
セントロへと向かうバスは常に満員状態のようで、いくら待っても乗れそうにない。
諦めてやっぱり電車で帰ることにしたが、
途中、直接ホテルの方へ向かうバスがあったのでそれに乗ってホテルへと戻った。
帰り道、夜の公園でタンゴを踊る人たちに出会う。
何かのサークルか何かなのだろうか周りを囲む人たちも、自由参加でそれに混じっている。
おじいちゃんも若い子も一緒になって音楽にあわせてステップを刻む。
素人も混じっているのでタンゴなのかただのダンスなのかは良くわからないが、
それはそれでみな楽しそうで日曜の夜を楽しんでいた。
なんだブエノスアイレスも悪くないじゃん。
踊る彼らの姿を見ていると素直にそう思えた。
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