2009年4月18日土曜日

世界一周(40)チリ/大切にしなくてはならないもの















DATE:2009/04/18 Chile - Puerto Natales -


朝、お日様が日の出の準備をし始めたころ山小屋の心地良いベッドの上で目を覚ました。
なんとかたどり着いたレフリオという名の山小屋には、
意外にもきちんとしたベッドが備え付けられていて、
日本の富士山のような一人ずつ交互に頭と足を反対にして眠る山小屋をイメージしていた僕には、
なんだか拍子抜けするほどに快適な夜となった。


まだ朝7時前だったが今日の帰りのボートは12時30分の一本のみ。
一度来た道を引き返すだけなので昨日よりは時間がかからないとは思うが、
余裕を持って5時間前には出発しておきたいところだ。

耳を澄ますと氷河のギュウギュウと軋む音が聞こえる。
目覚まし時計がわりのその音が、今日の朝を特別なものにしてくれた。

特に準備する必要もないので少し余った時間で氷河を間近に見ようと、
山小屋の近くを散策することにした。

実際に氷河まで行くには1時間近くかかるため、
氷河が見下ろせる高台まで上ってみる。

まだ朝日が昇る前の氷河は青い光も薄く、
ただ静かに山から河へ向かってずんとしてたたずんでいるばかりだ。
時たま聞こえる音がなければ単なる雪山のようにも見える。
しかし薄暗かった光が徐々に明るさを増すに連れ氷河に命が宿るようにその青が濃くなっていくのがわかる。
命が吹き込まれる瞬間を見ているようでなんだか不思議な気持ちになった。


高台から降りて荷物をまとめて山小屋を出たのは8時前だ。
予定よりは少し遅れてしまったがどうにかなるだろう。

今日は天気も良いようで朝から晴れ間が差している。
時々晴れだった昨日の天気よりは良さそうで、紅葉の中の景色を歩くのが楽しみになった。


ボートの時間があるので自然と早歩きになるが、
昨日よりも美しい山の景色を写真に撮りながら歩くので、
実際のところはそれほどスピードが出ているわけではない。

しかしまぁ、美しいところだ。昨日も思ったが晴れた日はなおさらだ。
何度しても足りないくらいの賛美を心に抱きながら、
あっという間にお別れになった景色を眺めた。

いくつかの小川を越え、紅葉の森を越えて進んでいく。

途中の小川でペットボトルに水を詰めると、
驚くような冷たさでミネラルウォーター顔負けの味がした。
そういやエビアン行ったっけかな。なんてことも思い出した。

河には相変わらずぷかぷかと浮かぶ青白い氷河が見える。
昨日まではただ美しいばかりだったが、
飲み干してしまったからだろうかなぜか親近感を覚える。
別に無生物に感情などはないだろうが、
ともかく僕はその河が終わり氷河が見えなくなること「またね」と告げた。


帰り道では逆に今日、トレッキングをして山小屋へ向かう人とすれ違う。
お互いに声を掛け合うのは世界共通の山のルールのようで、
「オラ!」と元気に挨拶しては互いのエネルギーを補充する。
なんでもないこういう会話が人の住まわぬこの場所では少しうれしい。
少しバテ始めたころになると、自分の元気を振り絞るように挨拶し、
帰ってきた挨拶でまた僕も元気になった。


しばらくすると見覚えのある湖が遠くに見えてそこがゴールだとわかった。
時間はまだ1時間以上ある。十分に間に合う距離だとわかり、
急ぎ足をやめて最後の景色を堪能しながらゆっくりとそこへと向かった。

30分もすると終にはボート乗り場へとたどり着き、
ここで僕の一泊二日軟弱トレッキングは終わりを告げた。

結局今日一日は最初から最後まで快晴で、
ボート乗り場からは昨日見えなかった美しい山の姿がくっきりと見える。
ボートを待つしばらくの間それを眺め、
ボートに乗り込んでからもまた湖と山々が織り成す景色をじっくりと眺めた。


ボートを降り待っていたバスに乗り込む。
後は昨日来た道を引き返すばかりだ。
名残惜しくもあったが同時に達成感もあった。
僕は夢のひとつを成し遂げたのだ。くだらない夢だがそれでも最高の味だった。

バスは途中、入園管理事務所でしばらく止まり、
僕はその間にピクーニャと呼ばれるラクダのコブなしバージョンのような動物と戯れる。
本当にパタゴニアは自然と動物にあふれている。

いつの間にか当たり前になってしまったこのパタゴニアの景色だが、
もう少しでお別れだと思うと少し寂しくもある。


ペリト・モレノ氷河に、パイネの山々。
圧倒的に広大な大地の中に自然は豊かに育まれていた。

この地に来ると守らなくてはならないものが見えてくる。

いや、守るというのはおこがましいかもしれない。
大切にしなくてはならない。
というのが正しいのだ。それは僕らの為なのだから。
自然が教えてくれるいくつもの答えを僕らは失うわけにはいかないのだ。



ゆっくりと山々は後ろに去り、
やがてポツリポツリと人の住む人家の景色が見え始めてきた。

慣れ親しんだ町でもないのに人がいる景色にほっとするのはなぜだろう。
「ただいま」と、誰に言うのでもなくつぶやいた。


大自然の中から僕は帰ってきた。

次はさらなる南へ。
目指すは南米最南端の町、ウシュアイア!


たどり着いたバスから町に降り立つと、心はもう次の町へと向かっていた。

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