2009年4月3日金曜日

世界一周(40)チリ/「いくら丼が食べたい」







DATE:2009/04/03 Chile - Santiago -


「いくら丼が食べたい」

彼女が朝一番に言い出した言葉はそれで、
そう言えばサンティアゴに着いてからずっとそんな事を言っている気がする。

財布が盗まれてめちゃくちゃになってしまったが初日の予定はそれで、
次の日に市場まで行ってみたがやっぱりイクラは無く
(それを探して回っていたら市場でシャケベイベーという言葉の大ブームが起きたほどに探したが)
残る望みは日本食レストランぐらいしか残っていなかった。

そんな訳で今日の目的地は日本食レストラン、その名も「ハポン」。
(スペイン語で日本はJAPON、ハポンと呼ぶ)


初日の反省を生かし今日は他のものに目をくれずに進むことにした。
そもそも初日に同じ場所を目指していたのに、
途中のレストランの美味しそうな写真に目がくらみ店に入ってしまったのが盗難にあったきっかけでもあったのだ。
という訳で今日はお腹が空いてもガンガン進む。

が、、、やっぱり目は他に振れてしまうもので、
結局お土産屋を冷やかしてみたりショーウィンドーをのぞいて見たりで、
30分で着くはずの予定がいつの間にか2時間かかってようやく目的地のレストランへ辿り着いたのであった。


海外における日本食レストランというのはある意味で「高級レストラン」を意味する。
ここ「ハポン」もまた日本人の駐在員やチリ人の高所得層が利用するレストランである。

と言うのは入ってから気づいた事で、
何も知らずに入った僕らは寿司カウンターが真っ直ぐと伸びる店構えに緊張を覚える。
中にいるお客さんもスーツ姿の人が多く、Tシャツの僕らは直ぐに場違いな所へ来たことを悟った。

とは言え元々は肩書きだけは立派なものを持っていた時代もある二人は、
何食わぬ顔で慣れたふりをして受付に「二名」と告げて奥の座敷を選び、
座敷というよりは掘りごたつのような所に靴を脱いで座った。

ふぅ。と、一息ついた僕らはウェイトレスがまず最初に持ってきたお絞りに驚き、
そう言えば日本って言うのはこういう所だったと思い出した。
まったくもって母国はすばらしい。

手渡されたメニューを見てその美味しそうな写真と品揃えに唾を飲む。
最初、そのメニューの多さに何にしようかと悩むことから始めたが、
そう言えば今日はいくら丼を食べに来たのだ、と思い出しメニューの中に「いくら」の文字を探した。


「いくら丼。ないね。やっぱり」

そう残念そうにつぶやく彼女。
メニューの中に見つかった「いくら」の文字は寿司ダネの中の一つで、
あの赤い粒粒がドーンと乗ったいくら丼の文字はどこを探しても見つからなかった。

しかし市場でも見つからなかったしどこに行ってしまったのだろう、鮭の子供たちは。
サーモン自体はサンティアゴでもビーニャの市場でもちらほら見かけたので、その卵だけが無いわけが無いのだが、
なぜか市場にも見つからず、日本食レストランでさえメニューとしては大きく取り上げられていない。
もしや内臓もろとも捨てられてしまっているのでは。なんてことが冗談とは思えないほど、いくらの影はチリでは気薄だ。
食文化の違いとは言えなんて勿体無い。

しかし考えてみると価値なんてのはそんなものなのかもしれない。
目の前にあるたくさんのもの。その一つ一つに価値を見出すか否かはその人次第なのだ。
自然。文化。個性。気づかぬ内に僕らは本当に沢山のものを失っているのかもしれない。
手の中で光る幾つもの宝石の光を僕らはちゃんと見つめられているのだろうか。


なんて事を食事中に考えていたわけも無いが、ともかくいくら丼がないことは確からしい。
寿司のいくらを大量に頼み丼にするというバブリーなアイデアも思いついたが、
日本よりも高い寿司を大量にオーダーするほどの度胸は無く、
結局はそれぞれ好きなメニューと、いくらの寿司を1つ頼むことで妥協した。
ともかく「いくら」は食べられるのだ。文句は言わないことにしよう。


僕が頼んだのは「鍋焼きうどん」でマサミが頼んだのは「うなぎ丼」
どちらも南米の地で食べるには十分過ぎるほど特別感がある。

期待を裏切らず運ばれてきた料理は、まさに日本の香りで僕らの鼻腔を刺激した。

「いただきまーす」

と、久々に手にした箸でお互いの料理を口に運ぶ。

言うまでも無い。うまい。

完璧と言えるほどのうどんの出汁。しっかりとした鰹出汁。
思い描いていた味と変わらない日本の味がゆっくりと笑顔にさせる。

マサミの鰻にも手を伸ばす。これも美味い。
どこから手に入れたのかは知らないが冷凍だとしても十分に美味い。
そして最後は、やっぱりいくら。

最初の料理が無くなったころちょうど良く運ばれてきたいくらの寿司に早速手を伸ばす。

あぁ。。いくらだぁ。。

なんなんだろうこの特別感。
ウニもトロも良いが、なぜかいくらと言うのは味以外でも特別な感じがする。
久しぶりに食べたいくらは口の中でプチプチとはじけ、じゅわりとあの味が広がった。


「あ。。写真撮るの忘れた」

と思い出したのはすっかりいくらを食べ終えて余韻に浸っているその頃で、
余りにもがっついていた僕らを思い出して笑った。
そんなわけで、あんなにも欲していたいくらの写真は撮っていない。あしからず。



そんなわけで念願のいくらにも巡り合えた後は、
そう言えばやっていなかったサンティアゴ観光をちょちょいと済ませ、
何故かずらりと並ぶ武器屋(なんと手裏剣まである)に驚いた後にホテルへと戻った。




ホテルに戻り既にパッキングされガレッジルームに置かれた荷物を見て考える。
そう、実は今日お互いの別々の場所へ出発する予定で既にチェックアウトを済ませていたのだ。

考える。考える。考える。決めた!と思っても、もう一回考える。


「んーーー、、もう一泊!」

と今日の日本食の幸せ感からか、なし崩しにもう一泊することを決めた。

そうなれば正真正銘最後の夜。
これから先、僕らが世界のどこかで再会することはおそらく無い。
次に会うのは日本、つまりは半年近く後の話だ。
それならば今日を精一杯楽しまない訳にはいかない。


最後に一本残っていた最高級のアルゼンチンワインを楽しむために
スーパーでチーズを買出し、サラダ用のアボガドなどなどを買い込んだ。

帰り道のピザ屋で最高のピザと最高のビールを飲んだ後、部屋に戻りくるくるとコルクにスクリューを差し込んだ。


「うまいっ!!!!」

ボデガ・ノートン、2003年、マルベック、赤。

今まで飲んだことがある最高級のフランスワインと比べても遜色ない味が僕らの喉を潤した。

やっぱり最後の夜はこうでなくっちゃね。
そうやって二人で笑いあった。


また会う日まで。


それまで僕らは笑顔でいよう。
そう思い、僕はとりあえず今日の夜に笑った。





Special Thanks, ぐれーとアルゼンチンワイン♪

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