2008年12月29日月曜日

世界一周(28)ヨルダン/脱エジプト記







DATE:2008/12/29 Jordan - WadiMusa -


別れの朝。

ウルルンのようなセリフが良く似合う朝。

残されるものと去るもの。
どちらが楽かはわからないが、
去るものは準備であたふたと過ごすため、
何かと気が紛れるものだと思う。

僕とマサミ、そしてエイタくんはやっとのことで荷造りを済ませ、
宿のロビーでみなと最後の時間を楽しんでいた。

次の国はヨルダン。

ここからヌエバアへとバスで行き、
そこからヨルダンのアカバ行きのフェリーへと乗り換える。
できれば今日中にペトラ遺跡のあるワディームーサまでたどり着きたいところだ。

しかしこのアカバ行きのフェリーが旅人には有名な遅延路線で、
料金が異常に高いわりには(なんと1万円弱)、
3~5時間の遅延は当たり前というトンデモフェリーで、
しかも場合によっては1時間前に出発、
なんていうありえない事態も発生するらしい。

というわけで僕らは最悪の事態を避けるため、
フェリー出港時刻14時の2時間前、12時頃にはヌエバアへ。という予定だ。

しかし・・・。


「あれ、タクシー来ないね」


気づいた時には10時をまわっている。
長距離バス停まではここから15分。
チケットを買うことを考えれば10分前には着きたいところだ。


あれ。やばくね?


一同、焦る。

タクシーをお願いした宿の人にもう一度確認する。
宿の人、なにやら別のスタッフに声をかける。
そのスタッフがついて来い、と合図をした。

僕らはそれに従い急いでリュックを背負い、
重い荷物を背負って宿の外にでる。

そこにはタクシーは。。待ち構えてはいない。

どういうこと?

と思うと、スタッフは歩みを止めず、
さらに裏道をぐんぐん歩いていく。

事態が把握できず、とりあえず追う一同。

スタッフは大通りへ出る。

そして迷うことなく、


すっと手を突き出してタクシーを止めるポーズを取った。




アホかっ!!!!!

いまから止めるんかい!

さっき宿で30分も前に予約をした意味はなんだったのだ。
一同、時計を見ながら焦りに焦る。
既に10時10分をまわっている。
長距離バスステーションに着いてもバスに乗れるかは微妙な範囲だ。


運よくタクシーが通りかかり目の前で車を止める。
タクシーとは言っても軽トラで、
それに荷物を乗せて人も乗せて走るダハブ式タクシーだ。

まぁ、ともかくこれに乗ればバス停までは行けるのだ。
とりあえず乗り込もうとするとスタッフがなにやらタクシーの運ちゃんと話している。

「20ポンドだそうだ」

・・・バカやろう。

さっき10ポンドで予約をした宿との契約はどこへ行った。
流しのタクシー捕まえてボッタクリ価格で乗るのならば、サルでもできるのだ。

だめだ。10ポンドの約束だ。

それを繰り返しタクシーとの交渉を続ける。
時間はないが、ここで負けるのはバックパッカーの名折れだ。
そもそも10ポンドも相場よりは少し積んだ値段なのだ。
タクシーとしても悪くはないはずなのだ。

5分ほど押し問答してようやく10ポンドで話がまとまり、
3人は急いで荷台へと乗り込んだ。

残ったゆうこりん達は僕らに手を振っていて、
なにやら青春の一ページのような感動の別れだ。

去っていくクルマ。

手を振り続ける仲間たち。


あぁ、これでエジプトが終わるのだ。

なんだかそれをしみじみと感じた。

クルマが角を曲がり姿が見えなくなるまで荷台の僕らも、
手すりにつかまりながら大きく手を振って別れた。


感動の別れのシーン。

とは言えだ。これでバスに間に合わなくては意味がないのだ。

次のバスの時間がわからないため、
最悪の場合、このまま宿に戻り感動の再会、もとい
おまぬけ野郎の帰還となるかもしれない。

それだけは避けねば。

あまりにも美しい別れに一同が思いを一つにした。


長距離バスステーションが遠くへ見える。
ただいまの時刻、10時25分。

バスに乗れるかどうかはギリギリのラインだ。

バスステーションにたどり着くなり、
僕とエイタくんが荷台から飛び降りた。

「マサミお金と荷物、エイタくん右からバスを探して!俺は左から行く!!」

荷台での打ち合わせどおり、
脱ダハブ大作戦が開始される。


左の入り口を入ると受付カウンターのようなものが見えた。

今回はこれをとりあえず無視する。
カウンターで悠長にチケットなどを買っていては、
バスが出発してしまうかもしれないのだ。

ともかくバスが並ぶターミナルまで行き、
左側から順にヌエバア行きのバスを探す。

と言っても、バスに書かれたアラビア語の行き先はまったく読めやしない。
手当たり次第にバスの運転手に「ヌエバア!?」
と聞いてみて反応をうかがうしかないのだ。

1件目のバスの運転手に聞くと、
「違う」と言い別のバスを指差す。

「ありがとう」と言ってそのバスの運転手に、
「ヌエバア?」と聞くと、「違う」と言って、
僕の立つ駐車スペースを指差した。

どういう意味?それをジェスチャーで示すと、

「ヌエバア」と言う。

周りを見渡すとそう言えば何人か待っているような様子の人々がいる。

その人たちに「ヌエバア?」と聞いてみると、「そうだ」と答えた。


つまりは。


「まだ来てない」ということだった。




なんじゃい、そりゃ。

行ってしまってないだけ文句は言えないが、
なんだかこんだけ焦ったのに無駄な徒労になっただけだ。

結局、エイタくんも同じ情報を確認したとのことで、
二人で窓口でチケットを買って無事にダハブ脱出を成功させた、


ちなみにバスが到着したのはさらに30分後。

なんじゃい、そりゃ。だ。



ヌエバア行きのバスがそこにたどり着いたのは結局12時ごろだった。

チケットオフィスを探し当て、
やたらと高いフェリー代を払うと、
出港まで1時間の余裕があったので
近くのレストランで焼き魚を食べると、
これが非常においしく、
紅海で魚をあまり食べなかったことを後悔した。


出発の30分ほど前になったので、
フェリー乗り場に行き出国の手続きをする。

出国スタンプが押されて帰ってきたパスポートに、
ついに別れのときが来たことを実感した。

フェリー乗り場にはたくさんの人がいて、
アカバ行きの船を待っている。

係員に「アカバ?」と聞き乗り場を聞いてみると、
少し待て、との返事で僕らはイスに座り出港を待つことになった。


3時間も。



をぃ、こら。少し待てとはこういうことかい。
海割るぞ、モーゼ呼んで来いこのやろ。

噂には聞いていたが、
一向に出港しないフェリーに一同イライラが募る。

遅れるならまだしも、
それが当然のように何のアナウンスもないことが一番のイライラだ。
3時間遅れると言ってくれれば、
何かしら時間のつぶし方を考えるのに、
何も言われないのでその場でじっと出港を待つしかない。
本を読んだり日記を書いたりしていたが、
いつしかそれも飽きてしまい、
ただただ死体のようにぼーっと船を待つ、
旅人の群れがロビーに転がっていた。

ロビーには意外にも日本人の団体客らしい人が多くいる。
ツアーの内容は「エジプト、中東を周る魅惑のアラビアンナイトツアー」
てな感じなのだろうか、
バックパッカーしか使わないだろうと思っていた路線に、
日本人のおじちゃんおばちゃんが一緒に乗り合わせていることが、
なんだか不思議な光景だった。


なにやらアラビア語でアナウンスが流れ、
ようやく出港となる。

待ったのは3時間。航海も3時間。
すっかり暗くなった海の外を見ても何の旅情も感じない。
夕日にきらめく紅海を見ながらエジプトを出国する。
という、ロマンティック出国企画も水の泡だ。

船内にはバーと書いてあるのにお酒がないバーや、
ヨルダンの入国カウンターがある。

入国手続きをこんなフェリーの上でするなんて、
さすが中東というべきか。
世界唯一の動く入国管理だ。

船の上でヨルダンの入国スタンプを押してもらうと、
28ヶ国目のヨルダンの入国が完了した。

まさかエジプトの紅海の中でヨルダンに入国するとは・・・。

中東は摩訶不思議なことが時たま起こる。


あっという間に3時間が過ぎて、
ヨルダンのアカバにたどり着くと時刻は夜8時を回りすっかりと日が暮れている。

どうやらアカバからワディムーサへ向かうバスは、
すでに出発してしまった後で、
向かうならばタクシーを使って移動するしかない。

最後の手段として、
さっきのツアー客のバスにお願いして乗せてもらおうとするも、
さっさと出発してしまったらしくバスの姿すらない。

ワディムーサまではタクシーで1時間ほどの距離。

こりゃ高くつくかも。

そう思ったが3人でシェアすればそれほどコストは高くなく、
許容の範囲内に思えた。
これがみんなで旅をすることのメリットなのだ。

考えてみればアカバで一泊すれば、
その分の宿泊費もかかるのでタクシーで移動したほうがコストは少ない。

しかしタクシーには4人乗れるのだ。

そう考えてしまうのがバックパッカー。
近くで誰かワディムーサへ向かう人がいないかを探していると、
ヨルダン人に囲まれて一人おろおろする日本人を見つけた。

ドランクドラゴンの塚地じゃない方に似てる彼は、
会社の夏休みの1週間で中東を旅しているという、
超高速バックパッカーだ。

彼もやはりペトラ遺跡観光のため、
ワディムーサへ向かうそうなので4人でタクシーをシェアし、
夜の道をびゅんびゅん飛ばしてアカバを後にした。



ようやく目的地のワディムーサに着いたときには、
夜10時過ぎ。

日本の温泉街のような山がちの土地に張り付いたように家が建てられている。
そのびっしりと張り付いた家の明かりが美しく、
また別の土地に来たのだと感慨にふけった。

ヨルダンはエジプトの暖かさとはうって変わって、
ダウンジャケットが必要なほどの寒さだ。
息はいつの間にか白い煙へと変わっている。

宿は暖房器具もなくビールも高い、
いまいちなところだったが毛布に包まり眠りについた。


アフリカ大陸から中東へ。

ここからヨルダン、イスラエル、シリア、レバノン、
そしてトルコへと抜けていく。

イスラエルの情勢はいまだ不明確だが、
その時はその時。風に任せて旅をすればよい。


未知から未知へ。


まだ何も知ることのない中東の旅が今始まる。


世界一周28ヶ国目、ヨルダン入国!!

2008年12月28日日曜日

世界一周(27)エジプト/あなたに会えて本当によかった






DATE:2008/12/28 Egypt - Dahab -


ニュースから1日経った今日も特に状況は変わらず、
情報もないまま出発を明日へと延期した。


集まった情報としては、
12月の始めからパレスチナ人側のイスラム原理組織ハマスが、
停戦調停が終わったことを理由に、
イスラエル領土にミサイル攻撃を開始、
それに業を煮やしたイスラエル軍が、
ハマスを一掃するためにガザ地区へ大規模な空爆を行ったとのことだ。
パレスチナ人に多数の被害が出ており、
民間人や子供も含めて死者が続出しているとのこと。

問題の本質がわからない以上なにも言えないが、
どちらが悪いという話ではなさそうだ。

聞いている限りだとイスラエル領土は、
それほど心配するほどの被害はなく、
旅行もエルサレム程度ならば可能な気もする。

不確かな情報であるため、
ぜひイスラエルから戻ってきた旅人の話を聞きたいものだ。

というわけで今日はのんびりと、
何もせずにダハブで過ごすことにした。



とは言えやることもあまりあるわけでもない。

幸いなことにここダハブは
「なにもしない」ということに寛容な町で、
それが自然なことでもある。

そんなわけで午前中はぼーっと宿の屋外ロビーで、
ソファーなんぞに座りながら過ごした。

午後になりなぜかコシャリが食べたくなり、
久々にコシャリを食べにレストランへと出かけた。

そこでもなぜかぼーっとしてしまい、
コーラを飲みながら窓ガラスに映る人々を眺めて、
1時間近くを過ごした。



宿に帰ると何もしないのもなんだなぁ、と思い始め
ボサボサになった髪の毛を切ることにした。

急に思い立ったので美容院などもなく、
仕方なく自分で髪を切ることにした。

屋上に上がり正面用と後ろ用に鏡を二枚用意し、
持参してきている梳きバサミを持って仕事を始める。

仕事、とたいそうなことを言っては見ても、
髪を切ることなんて東京で何度も自分でやったことがあるし、
インドやインドネシアで無残に切り刻まれた髪の毛を、
セットしなおしてきたのも僕なのだ。
いつも通り適当にざくざくと髪を切りそろえていった。


1時間もするとなんとなくまぁ、いいかな。な髪形になり
散らばった髪の毛たちを回収し仕事を終える。

ちょっぴり右側に段ができてしまったが、
さっきまでのボサボサ頭よりはましだろう。

何にもしない一日に、少しは労働をした気がして、
すこし気分がよくなった。



夕暮れ近くになりぶらぶらと外に散歩に出かける。

ちょうど壊れかけていたクロックスのサンダルの偽者が
500円ぐらいで売っていたので試着してみることにする。

本物に比べれば少し硬いが履けないレベルではない。

見比べてみれば本物よりも靴に空いた穴が少し大きく、
偽者とわかるデザインだったが、
そもそもこの靴の楽さを気に入って履いているので、
それは一向に構わない。

サイズ合わせをして1足、グレーの偽クロックスを購入した。


宿に戻るとロビーに人が溜まっていて、
その輪に入るとどうやらヨルダンから今日エジプトに着いた人らしい。

話を聞くとヨルダンは特に情勢に変わりはなく、
いままでと同じように旅行ができるそうだ。
また、イスラエルから来たという人に会ったとのことで、
特に問題はなく移動や出国はできたとの事だ。

それを聞いて少し安心し明日エジプトを旅立つことに決めた。

ともかくヨルダンまで行けば情報も集まるだろう。
そんな安易な気持ちだが、行かなければわからないことも沢山ある。



出発を決め皆に別れを告げ、最後の宴が始まった。

「みんなと会えてほんとよかったっすよ」

サトルくんが本音で語った言葉が良く似合う。

エジプトではたくさんの人とであった。

マサミをはじめ、
ゆうこりん、キョンちゃん、マサシさん、
サトルくん、イッセイ、ヨウコさん、エイタくん。
フェルナンドやジョナサン、そういやハッピーなんてのもいた。

今までの旅してきた中で、
こんなにも人と関わってきたことはあったのだろうか。

避けていたわけではないが、
あまり日本人と絡むことのなかった旅の中で、
エジプトの旅はとりわけ特別だったと思う。

しかしそれがとても心地よかったのもエジプトの魔力だ。

それはやはりこの国が「人」で成り立っていることにあると思う。


勇んで望んだ入国から肩透かしを食らったように、
エジプトの人々はみな親切で明るい気さくな人々だった。

人によってはコミュニケーション過多と思うこともあるだろうけれど、
僕には彼らのイケイケの好奇心が心地よかったし、
意外にもさっぱりとした引き下がり方にも好感を持った。

もちろん一部の人間には嫌な思いをさせられたけれども、
彼らが与えてくれた楽しみに比べれば微々たるものだ。


ピラミッドであった大家族。
アスワンで出会った澄んだ目のイスラムブックショップの店員。
ルクソールで見た超美人のお嫁さん。
毎日ダハブで顔を合わせたお土産屋の店員。

エジプトを思い出すと、
たくさんの遺跡よりもまず出会った人のことを思い出す。

ピラミッドやアブ・シンベル神殿なんかよりも勝る、
世界に誇る宝物がエジプトには息づいている。

砂漠の中に住む民。
その広大な土地に住む人間だからこそ、
ちっぽけな人間と人間の繋がりを大切にするのかもしれない。


だからきっと。

僕ら旅人は自然に仲間となり、
いくつもの笑い声となっていまここで酒を酌み交わしているのだろう。

別れることが決まっている出会いだから、
こんなにも楽しいのかもしれない。


あなたに会えて良かった。

そう思える人がいまここにいる。
それだけで十分ではないかと思う。


Nice To Meet EGYPT.

この国を旅して本当に良かった。



「みんなと会えてほんとよかったっすよ」


そうだ、本当に。

2008年12月27日土曜日

世界一周(27)エジプト/戦争のある世界







DATE:2008/12/27 Egypt - Dahab -


今日、ダハブを離れようか。
つまりはエジプトを離れようか、ということだが、
そんなことを考えながらぼーっとしていると、
いきなりのニュースが僕らを襲った。



「イスラエル軍ガザ地区に空爆」


ぬわにぃ!!!なんて事をおっぱじめるんじゃい!!!!




最初、その事実が何を示しているのかがわからなかった。

そりゃそうだ、日本に生きていて、
イラク戦争や中東戦争なんて言われても、
遠い海を越えた国の話で現実感など持ったことがないのだ。

だから今回もまた、初めて聞いたときは、
「あぁ、そうなのか」と他人事のようにしか思わなかった。



思い出した。

僕はエジプトにいるのだ。
そしてイスラエルはあと1週間後には着くはずの場所なのだ。


なんてことを・・・。


旅をしている限り他人事なんてことは一つもない。
それをいま久しぶりに思い出した。

ニュースを調べるもはっきりとした情報はまだなく、
実際には何が起きているのかはわからない。

ただしガザ地区といえば今いるエジプトからは目と鼻の先。
行こうと思えば10時間もすれば辿りつける場所なのだ。

そしてそれは、これからの旅の予定にも大きく影響を与えることも意味している。

戦争が起これば隣国の国境もまた警戒態勢になるし、
そもそもイスラエル自体への入国は難しくなるだろう。

もともとの予定では年末のカウントダウンパーティーは、
イスラエルのテラヴィヴで、という計画だったが、
それもまた難しいかもしれない。


情報がないままただその場にいる旅人全員が凍りついた。


ともかく未確認のままここを離れるのは得策ではないだろう。

そう思い出発は延期し事態が把握できるまで、
少しの間この場所に留まることに決めた。

この場所にいればこれから行く予定のヨルダンから来る旅人に出会えるだろうし、
その人たちに隣国の現状を聞くことにしよう。


まだ何もわかってはいないが、
僕らが当事者の中に含まれていることはわかった。


世界はどこも繋がっているのだ。
生きている限り僕らは当事者であることから逃れられることはできない。

誰かが傷つくことも、誰かが泣き叫ぶことにも。



ニュースに揺れ、少し平常心を無くしたエジプトの町。
2009年12月27日、僕はその中にいた。

2008年12月26日金曜日

世界一周(27)エジプト/手に入れろドラゴンボール!







DATE:2008/12/26 Egypt - Sharm ash-Shaykh -


船の上で目を覚ました。

寝袋を敷いた船の甲板の上、
朝6時、朝日もまだ昇らない白ずんだ朝。

空が段々と色彩であふれ出す。
暗闇から白へ、そしてオレンジが混ざる。
そのオレンジは徐々に色を増しそして朝日となって弾けた。

いつの間にか動き出していた船は既に海の真ん中を静かに進んでいく。


そんな朝の世界。
まだ誰もが起きだす前。海の上の世界はこんな感じだ。



朝日も昇り少したつとダイバー達はひとり、また一人と起きだし、
朝食の準備が始まった。

船に乗り込んだのは約15人のダイバーで、
その誰もがあるひとつのものを目的にここにいた。


紅の海に沈む船。


THISTLEGORM。

その船はイギリスの軍用船で、
第二次世界大戦中、物資を運ぶ途中、
紅海にばら撒かれた機雷に沈められた。

それ以来、紅海に沈み続けるその船には、
備え付けられた大砲や機関銃が甲板に並び、
その船内には軍用のバイクや車が今もなお整然と並んでいる。
船の中にはバスルームやキッチンがあり寝室がある。


その船に潜る。

それが今ここにいるダイバーたちの全ての目的だ。

みな期待に目を輝かせている。
各スキルによってチーム分けをしたあとのブリーフィング。
誰もが目の前に置かれた沈潜の絵を前に興奮を露にした。



さて、ここに日本人だけに伝えられた一つの伝説がある。


昔、ある旅人がいた。

その旅人は世界を周っている。

旅人はあるひとつの事をしでかした。


なにをしたのか?



あるものを世界中に置いて周っているのだ。


何を?



・・・ドラゴンボール。


あのドラゴンボールをだ。

世界中に置いて周っているそうなのだ。
そのひとつがなんとここ紅海の沈潜の中にあるという噂なのだ。



こりゃ潜るっきゃないっしょ?



そんなわけでこれは憧れの沈潜ダイブ、
憧れの紅海ダイブの上に、
「ドラゴンボール探索ダイブ」でもあるのだ。
期待にテンションは最高潮だ。

ちなみに日本人が誰もいなかったので、
同じチームのフランス人やらイギリス人やらに話をしても、
「へーそうなの」ぐらいの反応だ。
やっぱりこのネタで熱くなれるのは日本人ぐらいなのだろう。
そんなわけで一人だけの探索ダイブが幕を開けたのだ。


今日のダイブは
一本目で沈潜の周りを回り、
二本目で沈潜の中を探索する。

三本目はポイントを移動して
紅海の中の海洋国立公園でのダイビングと計3ダイブの予定だ。



というわけで沈潜ダイブ一本目。


船のデッキからジャイアントスイングで海へ飛び込む。

船から離れマスクを装着し機材の最終チェックを行う。
波は少し強く体勢を維持するのに少し苦労をする。

マスクのチェックをしようと海に顔を突っ込むと、
そのいきなりの世界に仰天した。

足元には既に沈潜の姿が見えた。

思っていたものよりかなり大きい。
全長100メートルのその船は大きいと思っていたが、
それが足元にあることが異常なことに気づく。
地上で生きる限りこんな世界は見えるわけがないのだ。

20メートルも下の船の姿は、
暗く青くただハッキリと形を留めたまま海の底に横たわっていた。

それが見えるというのは紅海の透明度もまたすばらしいということだろう。
みながその足元に気づいたらしく、興奮で声を上げている。

ガイドの合図で一斉にみなが海へと沈降する。

船の姿がだんだんと近づいてきて、
あっという間にビルのようなその姿が目の前に横たわった。


ガイドの合図で船のまわりをゆっくりと泳いでいく。

目の前を大きな筒のようなものが通り過ぎていった。
灰色の泥のようなものをかぶったその筒は、
その足元に大きな台座を備えた巨大な大砲。
そんな映画のような光景が目の前を、
これもまた映画のようなカメラワークで目の前を通り過ぎた。


船に空いた幾つかの穴からは船の中の光景が見える。

まだ遠くからはわからないが部屋のようなものがいくつか。
そして大砲の弾だろうか、魚雷だろうか、そんなものがいくつも。
ダイバーが吐いた息だろうか空気の粒がいくつも昇っていく穴もある。

この中に入ればもっと多くの発見があるだろう。
次のダイブへの期待も膨らんだ。


ガイドがこれを見ろ、と合図をする。

何の変哲もない船の甲板。
ここに何があるのだというのだろうか?

じっくりと見てみると何か魚のようなものが横たわっているのが見え、
それがワニのような口をしたクロコダイルフィッシュだということがわかった。

沈潜には既に多くの生き物が住み着いていて、
サンゴや海草なども多く付着している。
その周りを多くの魚たちが泳ぎまわり、
ひとつの生活空間を形成している。
50年もの時が経てば、
どんな異物だろうが生活の一部となる。
そんな海の世界の出来事を垣間見ている気がした。



船の先端近くまでたどり着くと、
パックリと二つに分かれた機雷の直撃の後が見える。

機雷を食らったこの船は、
この場所からポキリと船体をへし折られ、
そのままこの場所へと沈んでいったのだろう。
折られた先端の部分は横たわり船底を横に向けていた。

その大きな穴からは戦車が見える。

置き去りにされた戦争の跡がなにか不自然で、
時を止めた世界のようにも見えた。



ぐるりと船の周りを一周し一本目のダイブは終了し、
海の上にあがった時にはみな興奮を抑えきれず、
口々にその美しさを称えあった。

メッカを目指す聖職者達のように、
この場所にたどり着いた僕たちは喜びに満ち溢れていた。

休憩時間の間、僕らはずっと太陽を浴び、
ただのんびりと今見た光景を思い出していた。
そしてそれがまだ僕らの足元に転がっていることを不思議に思った。



のんびりと日向ぼっこをしていた僕らを急かすように
ダイビング二本目は始まった。


船の中は意外にも暗く、しんとした止まった世界が
身動きもせずに時代に取り残されていた。
残念ながら懐中電灯を持ってくるのを忘れてしまったが、
それでも深い海の底に届くわずかな光で照らされた船内は美しい。

船内に入るとまずは小さな部屋を上に登り、
アスレチックのような動きをしながら徐々に奥へと進んでいく。

その部屋を抜けると一直線の倉庫が目の前にあり、
足元にはずらりと軍用バイクが整然と並んでいる。

その真上をすぅっとフィンをゆっくりと蹴って通り過ぎる。

灰色の海ほこりを被った機械達はただ沈んでいるだけだ。
ただ沈んでいるだけというのにこんなにも美しいなんて。

目の前の世界は現実なのに。

何か信じられないものを見ているような。
フィンをひと蹴りすれば世界は変わる。
その自分の動作さえも非現実的なものに思えた。



大切なことを思い出した。



ドラゴンボール!!!



そうだ、うっかり感動ばかりしてるわけにはいかないのだ。

バイクの上からその下まで、
目をしっかり見開いてオレンジの珠を捜索に入る。


次の部屋に入り軍用車が並ぶ倉庫にたどり着いた。
しかし最初の感動はどこへやら、
既に気分はドラゴンボール!
全身のドラゴンレーダーを全開にするのだ。

つかもうぜ!ドラゴンボール!

いつの間にか頭の中はドラゴンボールの主題歌が流れている。
そうだ、この世はでっかい宝島なのだ。
世界一周中の僕がドラゴンボールを見つけないでどうする。
7つの珠を揃えるのだ。
そしてギャルのパンティお~くれ!と言うのだ!!


軍用車の部屋ではドラゴンボールは見つからず、
次の部屋に入ると空気が溜まっている天井があり、
そこから顔を出すと朽ちた船内が見えた。

ちなみに次の部屋に行っても同じような空気溜まりがあり、
同じように顔を出そうとすると、
なんとそこはただの天井で強かと頭を打ちつけることになった。
しばし一人で水中でかえるの様に悶えた。



しかしこの偽空気溜まりの部屋が怪しい。
僕のドラゴンレーダーにびんびんキテいる。

僕がドラゴンボールを置くとしたら。
どんなところに置くのだろう?そう考えた。

誰もが見る見所ポイント?それとも甲板?
いや、、、そんなことをするクレイジーな旅人ならば。

何の変哲もない何もないところにひっそりと置いていくだろう。

それにこの仮説にはひとつ理由があった。


ダイバーは海にごみを捨てちゃいけないのである。


海から何かを持って帰ってもいけないし、
何かを置いていってもいけないのだ。

だから。

何かを置いていったのだとしたら。。
誰もが注目しているバイクや車が並ぶ倉庫ではなく、
注意が向かない何もない部屋である可能性が高い・・・のだ!きっと。


何の変哲もないこの部屋でなぜか一人熱心に何かを探す日本人。
エジプト、紅海。12月の珍事。

しかし探せど探せどオレンジの珠は一向に姿を現さない。
走行しているうちにチームのみなは次の部屋に向かってしまう。

船室の中のバスルームやキッチン。

いや、そんなものどーでもいいのだ!
ドラゴンボールを探すのだ!!!




海から顔を出したダイバーたちの顔にはただ達成感のような、
喜びの表情が浮かんでいた。

そして一人の男の手の中には・・・。


ふんっ!ねーよドラゴンボールなんて!!


そんな訳で無念のまま後にした沈潜。
そこにはまだ何かが眠っているのかもしれない。

世界中のダイバーよ!後は任せた!!残りの6つは僕が探す!







三本目のダイブ。海洋国立公園でのダイブである。

正直、このオマケのようなダイビングに期待してはいなかった。
が、海に入りそれが間違いだったことに気づいた。


今まで見た海の中で最も美しい世界が360度。

色とりどりの珊瑚、それに群れるさらにカラフルな魚たち。


天国のような世界。


それ以外に表現する方法がないような海。
ただその中に漂うだけで僕は満足した。


その珊瑚の海を泳いでいると、
足元には異様な光景も広がっている。


トイレ。。。。。


なんじゃこりゃ?


トイレだよなぁ。便器だらけだよねぇ。

なんと足元には数百個もあろうかというトイレ畑。
生まれてこの方知ることはなかったが、
トイレはこうやって海から収穫されるものらしい。

そんなアホなことを想像してしまうぐらい、
海の中とは似つかわしくないトイレの山。
なにやらこれも沈潜の一つらしいが、
どうも積荷が便器だったらしく、
こうやって沈んだ後も便器を撒き散らしているらしい。
なにも、便器積んで沈まなくても・・・。
船長はさぞ無念だったに違いない。



トイレ畑に珊瑚に魚。

そんな素敵な海もそろそろお別れの時間。
上昇前の安全停止を海中5メートルで行っていた。


すぃっ、と目の前を何かが通り過ぎた。




僕は最初、それが信じられなかった。

紅海でそれが見られるとは聞いてもいなかったし、
もし見られたとしたらそれは奇跡の類だろう。



奇跡は起きた。






イルカ!!!!!!!!!!!!!!!!!!







目の前を体をくねらせて優雅に泳いでいくイルカ。

興奮のあまりパニックになるほどだ。

急いで誰かにこの幸運を分けてあげようと、
隣にいたカナダ人の女性に指差ししてイルカの存在を伝える。

最初、何事かと思っていた彼女も、
その存在を認めるとぼうぜんと立ち尽くしたように、
そちらの方向を見て動きを止めた。


ゆっくりと尾で円を書くように上下に揺れる身体。

動物園でしか見ることのない世界が、
いまこの目の前で現実に繰り広げられている。


ただの生き物であるはずなのに、なぜこんなに美しいのだろう。

音も立てずに優雅に羽ばたき、イルカはあっという間に視界から消え去っていった。





アンビリーバボー!!!!!!!!!!!



目の前で起こったことが信じられず、
安全停止も忘れてただ今見た光景を思い出していた。


すげー!すげー!すげー!


頭の中で何度もその言葉を繰り返す。
何が起きた?いま何が起きた?







僕はこの興奮とあのイルカの姿を忘れることができない。

この幸運をただ喜ぶことしかできないが、
いつかまたこの海を潜れば
またあのイルカが会いに来てくれるのではないかとも思っている。


その夜。

ダハブに戻り、星空の下みなでまったりとビールを飲んだ。

ゆっくりと羽ばたくイルカの姿は僕の目の前に今も生きている。


僕はいま奇跡の中にいる。

その言葉が不自然ではないほど星空は強く瞬いていた。




僕はいま奇跡の中にいる。

2008年12月25日木曜日

世界一周(27)エジプト/クリスマス☆ダイバー





DATE:2008/12/25 Egypt - Dahab -


目の前を泳ぐ魚の群れは、
遮るもののない透明な海の中をゆったりと泳いでいる。

水面下には珊瑚のカーペットが、
海底を覆いつくすように一面に広がっている。
照りつける太陽を浴びた波の影が、
ゆらゆらと姿を変えながら珊瑚の上で遊んでいる。

すぃっ。

そんな音が聞こえるように、
目の前をオレンジと緑に染まった極彩色の魚が通り過ぎた。

すぃっ。

僕もそれを真似てフィンをひと蹴りし、目の前の魚を追跡する。
魚はしばらく目の前を優雅に泳いでいたが、
最後はめんどくさそうにプイと尾びれを翻し、
反対側へと戻っていった。

魚に別れを告げて穏やかな波の中、
あまりにも近い珊瑚に身を縮めながら、
水面をゆったりと流れていく。
フィンを蹴るのをやめ、ただ波に揺られる。

目の下を映画のような風景が流れていく。

魚のような気分。ではなくクラゲの気分。

ぼんやりと日を浴びながら波の中をたゆたった。

シュノーケルの息づかいと、波の立てるカラコロとした音だけが、
僕の世界を満たしていた。





重い機材を背負い海の中に入ったとたん、
目の前には真っ暗な黒い世界が広がっている。

まるで宇宙の真ん中に放り出されたような気分。

まだ足元には珊瑚や岩と、地球の名残があるのに、
たった一歩踏み出すだけで宇宙へと旅立てる。

海岸線から10メートル。
ぽっかりと海に空いた果てしない落とし穴。
ブルーホールとはそんな場所だ。

宇宙と地球の境界線のような壁をゆっくりと降下する。
地球側にはしがみつくように珊瑚が生息し、
そこを棲家とする魚たちが宇宙へと放り出されないよう、
おっかなびっくりに壁のあたりを行ったり来たりしている。
色鮮やかなそれ達は壁を染め日々姿を変えている。
赤い小さな魚の群れが壁に命を吹き込んだ。


真っ暗な宇宙の中、何かが動いたのが見える。

ぼんやりとした青い光の中、
ゆっくりとそれは形を取り戻し、
最後には巨大なナポレオンフィッシュへと姿を変えて通り過ぎていった。


いつの間にか世界は青へと変わっている。
水深30メートルの世界はただただ青に塗りつぶされて、
魚も珊瑚も人でさえも本来の姿を失っている。
それでも足元はまだ果てしない海が口を明けたまま。
ほんの少し浮力を減らせば、その世界へ落ちていく。
その気はないがほんの少しの間、
その暗い海の底をじっと眺めていた。

世界にはまだ僕らが知らないことがいくつもあるんだ。



そんな今年のクリスマスプレゼント。

シュノーケルのフィンが外れたり、
ダイブ中に機材が壊れたりしたけれども、
それもまたエジプトの小さな物語。


世界最高の海、紅海での出来事。




深夜1時。

ダイバーたちを乗せた船はシャルムシェイクの港をゆっくりと出航した。

目指すは紅海の底に沈む時を止めた船。

沈む船の中に何を見る?